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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 20

 戦時の敵味方ならばともかく、平和なときに人を殺せば、そいつはまぎれもない犯罪だ。しかも、人から唾棄されるに十分な。
 クラレイが訊こうとしたのは、だから、(俺が「そういう存在」だといきなり知らされたら、あんたはどうする?)ということでもあったのだ。そして、(俺の親父が「そういう存在」だったら――?)ということですらあったはずだ。
 その人間と、その血縁……とくに親が、ほとんど一身同体にみなされるのは、キラは身をもって知っている。彼自身は、「親と逆」でかえって異端視されているが……
 それも、キラ自身が半ば意識して、半ば無意識で、周囲が押し付けてくる血のくくり……軛から必死にもがいて逃げようとした結果だ。多少の違いでは逃げきれない、だから、「逆」にしかなれなかった、軛はそれほど重く強力なのだともいえる。
 ただし、それでもキラの場合、覆いかぶさっているのは「栄光」だ。それがマシだとは、キラはまったく思わない――そのぶん、そこから逃げ出して自分自身であろうとしてきた行為は理解されず、嘲笑われてきたのだから。
 が、覆いかぶさっているのが「罪悪」であり「汚名」であったら?
 そこまで考えてようやく、キラは本当にクラレイの緊張の意味を悟った。ただ知識の上で知らなかったことを知る、それだけの問題ではなかったのだ。
 それでもあえて、クラレイは、キラがともに父親の話を聞くのを拒否しなかった。「信用する」という言葉も撤回していない。
 無意識に、キラの口元は笑っていた。「信用される」ということを、いまは手放しで喜べる。
 呟いた。
「俺は俺だ。親父とは違うんだよ」
 クラレイがきょとんとして向けてきた眼を、まっすぐ見つめ返す。
「おまえはおまえだ。親父さんとは、違う」
「……」
 そう言ったキラに、クラレイは怪訝な眼差しを向けた。
 およそ想像とは違う彼の反応に、キラは眉をしかめた。もしキラが同じことを誰かに言われたら、もう少し喜ぶだろう。…でなければ、怯むかもしれない。父の権威に依らない自分という、未知の境地に恐れをなして。少なくともこんな反応はしない。こんな、何を当たり前のことを言っているのだとでもいうような顔は。
「何だ、その顔」
「いや…」
 クラレイは、考え込むように顎に手をやった。
「今のは、元気づけてくれようとしたわけか?」
「は? いや別にそういうわけじゃ」
 面と向かってそう訊かれると、少し違うような気がする。キラはただ、胃の腑に落ちた実感から、浮かんだ言葉を口にしただけだ。それがその場にふさわしいか、相手に何をもたらすか、正確に予測していたわけではない。
 首をかしげるキラを、クラレイはじっと見ていたかと思うと、おもむろに言った。
「あんたは…」
 何やら重々しい調子に、キラは思わず、続く言葉に固唾を飲んだ。

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