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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 19

「はぁ!?」
 キラの口から、素っ頓狂な声が出た。
「ふ、ふざけんなっ! タチの悪いざれ言ほざきやがって!」
 今度こそ、盥の中身をぶちまけた。もっともクラレイはひょいと跳びのいて、飛沫も浴びなかったが。
 跳びのいた先で、彼は静かに、怒りに呼吸を乱しているキラを見つめた。
「……今あんたが受けたくらいの衝撃を、俺も受けるかもしれないな。ちなみに、ざれ言もなにも、俺は『俺は人を殺した』なんて一ッ言もいってないけど。あと、王宮の中でそんな言葉遣いしていいのか? 陛下の教育に悪影響が出そうだが」
「誰のせいだ!」
「あんた、かな?」
「『かな?』ってなんだ『かな?』って!」
「俺は緊張でおかしくなりそうなのにあんただけリラックスしてるからさ――さっきの『驚いた』だって、要は単に『珍しいと思った』ってだけだろうが。心拍数あがってねえだろ」
「そうかもしれないけど、『要は』で要約しすぎだ! おまえこそ、つまるところ、俺がおまえほど緊張ないのが癪で、憂さばらししたいだけだろ!……第一、おまえ本当に緊張してんのかよ」
「疑うなら、脈でも見てみるか?」
 クラレイが片腕突き出した。
 なりゆき上、キラはその手首をとって……
「ん…んん……?」
「おい」
「う〜ん」
「……あんた、測りかた知らねえだろ? そんながっちり掴んで、測れるかよ」
「え? なら、こう――」
「あつっ! 筋の間に指くい込ませんな、馬鹿!」
 キラの「落ちこぼれ」の面目躍如といったところだ。そんなものがあればだが。
 二人のこのやりとりは、すぐにじゃれあいに発展した。ひょっとすると、そのまま場所も忘れてつかみ合いぐらいにはなっていたかもしれないが、そのまえに、部屋の扉が遠慮がちにノックされた。
「あの……お召し替えはお済みでございましょうか? 国王陛下ならびに王姉殿下が白鳥の間でお待ちでございます。それから、本日は途中、ガラタクル卿もお越しの由にございますゆえ、そのおつもりで……と、これは王姉殿下の仰せでございます」
 小姓の声に、キラが応えた。
「――わかった。すぐに参りますとお伝え願いたい」
「かしこまりました」
 小姓の退がってゆく足音が聞こえなくなってから、クラレイがいった。
「舞台の支度は整った、ってわけだ。じきに、幕があがる……ってね」
 冗談めかした言い方だが、クラレイがたしかに緊張しているのは、さっき腕を掴んだとき、脈こそ測れなかったものの、その硬さでキラは確認していた。じゃれあいも、冗談めかした言葉も、紛らわしにすぎないだろう。
 二人は急かされたために無口になってクローゼットをひっかきまわしたが、その途中でキラはさらに気付いた。
(こいつが、あんなことを言ったのは……)
 クラレイが、「人を殺した」と思い込ませるようなことを言ったのは、本当は、「俺が殺人者だとしたら、あんたはどうする?」と訊きたかったのではないか。

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