ランドランド〜キラの旅立ち〜 17
……解らない、わけではない。もちろん、ただでさえ緊張しているところへ今のような事実があれば――そしてその意味に気がついてしまえば、キラ自身だって脳貧血をおこしそうになるだろう。
なにしろ、「実質的な国家最高為政者が、〈わざわざ〉裏切り者の息子を見に来た」のだ。
もっとも、証拠はない。王姉殿下はただ、ひさびさに、ある意味幼なじみといえるキラとたわいない話をしたくて、クラレイが来るのと時が重なったのは、ただの偶然かもしれない。
「あ!」
不意に、キラは叫んだ。
もう一人、重要な人物を思い出したのだ。
「……なっ、なんだよ?!」
放心状態からさめて――どころか、椅子から思いきり跳び上がって、クラレイ。よほど、キラの声に驚いたらしい。
キラは膝をうって、
「アリエ……ガラタクル卿だ」
「うん、……で?」
クラレイは、その名を聞いても存外平静だ。かえってキラのほうが当惑した。
「で?――って、なあ。いや、ア……ガラタクル卿も今日ここに来るわけだろ、そうすると、王姉殿下も、それで来たんじゃないかと……」
あまり、うまい説明のしかたではない。
それでも、クラレイが応えたのは一念通じたか、それとも聞くほうが勘をはたらかせたか。とはいえ、結局返ったのは、
「俺が改めて驚いたのって、王姉殿下とガラタクル卿が揃うと思ったからなんだけど。あんた、ガラタクル卿のことを今まで忘れてたのか?」
キラには意外な、そんな言葉だ。
「え?」
「おまえ、俺が親父のことをガラタクル卿に聞けるように、ってんで俺を引っ張ってきたんだろ、こっちはそれで構えてたところに王姉殿下までご入来で驚いたんだ――殿下も、親父の死にかたに興味をお持ちなのか? って、な」
「う……」
実は、キラにはさっぱり思いいたらなかった話である。ガラタクル卿と会うことすら忘れていたのだから、無理もないが。
クラレイは続けた。
「考えてもみろ、いくら親父が裏切り者の鼻つまみ者で名高くっても、その息子を見るためにだけわざわざ足を運ばれるのが、『聡明なる王姉殿下』なさることか?」
……たしかに、クラレイの顔を見るためにだけ来たというのでは、アイアダルはとんだ酔狂者ということになってしまう。それに比べるとまだ、すべてが偶然であったというほうが納得いくくらいだ。
では、アイアダル王姉殿下は、クラレイの父親ファンタン・レジャンの話がガラタクル卿アリエルの口から語られるのを聞きにきたのだ。……それとも。
「それとも、王姉殿下は最初からガラタクル卿が今日話される内容をご存知で、お口添えでもされるつもりかもな?」
そういうことも有り得る。単純に、可能性としては。
だが、
「おまえ、そりゃ――王姉殿下にも、それにアリエルにも失礼だろ」
思わず、キラはいった。慌てるあまり、しっかり「アリエル」と呼び捨てにしてしまっているのにも気付かずに。