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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 16

 というより、「お手伝いいたします」というのを、キラのほうで退がるよういったのだが。
 部屋の中には、やや低めの椅子と、そのわきにこれもやや低い卓、そしてその上に湯の入った銀の盥とやわらかそうな布が置いてあった。
「……驚いた」
 はからずも、キラとクラレイの口から同じ言葉が飛び出した。お互い、そのことにまず眼をまるくし、ついでニヤリと笑って、
「何に?」
 相手に訊いたのも、やっぱり同時だ。さらに、
「王姉殿下」
 答えまでもが、ぴったり重なった。
 もっとも、王姉殿下について何を思って驚いたかというのは二人と彼女との関係の相違から、多少異なっていたが。
 クラレイのほうはただ単純に彼女の「出現」に驚いたのだ。
 が、キラは――もちろん出現それ自体にもびっくりしたが、「彼女の出現が示す事態」に驚いたのだった。
「……って、つまり何だ?」
 それぞれ、驚愕の理由を述べあったあと、キラの言葉へクラレイが疑問をさしはさんだ。
「いや、実は説明しにくい……」
「しないと解らねえだろ」
「なんていうかな――」
 キラは洗い終えた手を布で拭きながら、
「俺が、最初に『姫』って呼びかけちまったの、聞いただろ。昔、そう呼んでた名残で――」
「ああ」
 いささか、屈託をにじませたクラレイの声だが、この際だから、あれこれ脱線したことは口にせず呑みこんだ。
「……いまだに、『王姉殿下』って呼びなれてなくて。陛下の後見って重い立場につかれたからには、まあ、それなりの呼びかけをしないといけない、それは親父に言い含められたし、俺だって解っちゃいるんだけどさ」
「………」
「けど、一年半近く経つんだよな――そう呼ばないといけなくなってから」
 不意に、クラレイの顔色が変わって、ちょうど手にとったところだった布をとり落とした。
「ってことは、つまり……!」
「え? もう、俺のいいたいことが判ったのか?」
「……こういうことだろ、『姫』と呼ぶ機会はたくさんあったが、『王姉殿下』と呼ぶ機会はほとんどなかった――この一年半近い間に、だ。つまり、ここ一年半、彼女があんたのいるときにここへ来ることはほとんどない」
「いや――まったく、だ。まったくなかった」
「じゃ、彼女に会うのは一年半ぶり……なのか?」
「そうでもない。親父に連れられて出席した式典とそのあとの親睦パーティーで何回か会った。でも……そのときだけだったんだよな、『王姉殿下』って呼びかける機会は」
「その王姉殿下がどうして、今日にかぎって、ここに?」
「さあ? けどそれで、俺も驚いてるんだ、解っただろ?」
「ああ――」
 半分ため息のようにクラレイは答え、その顔に眼をやったキラははっとした。常から白い顔をいまは蝋のように青ざめさせて、彼は唇を破れんまでに噛み締めていた。

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