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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 15

 アイアダルは小さくくす、と笑った。
「よいのです。気にしないで」
 カツ、と右手の杖をついて、一歩彼らに近づく。

 彼女は生まれつき足が悪く、移動するのに杖を手放せない。
 だが、いつ見ても妙な杖だとキラは思った。
 ねじりのついた古い木の枝を削りだした杖は、おとぎ話の魔法使いや老いた賢者を連想させた。うら若い少女にはふさわしくない。まして王家の姫だ。宝石で飾り立てた杖をいくらでも作れるだろうに。
 彼女のまとう、どこか現実感のない、花や風を前にしているような印象をその奇怪な杖が助長していた。
 ただし。
 彼女自身……つまり彼女の内面は決して、現実と掛け離れているわけではなかったが。あれこれ計算もすれば、策謀をめぐらすこともできるのだということは、東方大戦の戦禍がまだあちこちに残るこの時代に王の後見として政を行い、これまで大過なく国を保っていたことからも知れる。
 頭そのものの出来ももちろんずば抜けていて、実はクラレイが例の試験予想問題を解いてのけたとき思ったのが、(アイアダル姫と比べたらどうだろう)ということだった――つまり彼女の頭脳は、キラにとってひとつの規準にさえなっていた。
 もっとも、そんなことをいちいち述べるまでもなく、王宮の人々がこぞってその聡明さを讃える王姉殿下である。現実的でない人間が政治に関わって、とうてい得られる評価ではなかった。
 最初、その美しさに魂をぬかれたようにぼうっとなっていたクラレイは、キラの様子を見て……なおしばらくしてから、名高い「聡明なる王姉殿下」がまさに目の前にいるこの少女であると悟ったらしい。あわてて片膝ついて、
「拝謁の光栄を賜り、恐悦至極に存じます。見苦しき装束にて御前を汚しましたご無礼は、どうか御寛恕のほどを」
 一度、そこで言葉を切ったのは、この王姉殿下とは偶然出会ったわけで、その人に用があって国王陛下(ただし、甚だらしからぬ)に伺候したのとはわけがちがう。だから、ここで名まで名乗るのは図々しく思われたのだ。
「あら、まあ」
 アイアダルは軽やかに笑い声をたてた。
「構いませんから、どうぞお起ちになって」
「では、ご無礼をつかまつりまして」
「『ご無礼』もなにも……ここはとっくに無法地帯でしょうに。陛下からして『こう』ですもの」
 いいながら、彼女はやはり笑っている。
「こう」とは、つまり「こう」だ。というと、どうもはっきりしないが、アイアダルは三人の姿を見ているから、その場の人間には「どう」なのかはっきり判った。
 たしかに、泥まみれの国王陛下には、無法地帯でもないかぎりお目にかかれまい。
 結局、三人はまず着替えをすることになり、国王はじたばたするのを女官にひっぱられて行き、キラとクラレイはそろってべつの一室に通された。
「汚れを落とされましたら、クローゼットの中からお好きなお召しものをお選び下さりますよう」
 案内した小姓はそういって、退がっていった。

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