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もう一人のわたし
その他リレー小説 - 二次創作

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もう一人のわたし 2

「あなたのこと、本当のこと言っても、たぶんみんなには理解できないと思うから…私たち教師だって良くわかんないくらいなんだもの…だからね、長期入院ってことで報告することにしたのね。
それで…あなたからもお友達に連絡しないようにしてくれますか?」
そん時はお母さんもいっしょだったから「え〜っ?」とか言いたかったけど、先にお母さんが「わかりました」なんて言うんだもの。
一人になる時間が増えて、私は考え事をする時間が増えてきた。
 もちろん、覚えなきゃならない事もたくさんあったから、読まなきゃいけない本もいっぱいあったんだけど、
 『 ワタシガ モウヒトリ フエル ってどうゆうことだろう? 」
って好奇心の方が勝ってたから、気がつくと字面を追ってるだけになっちゃう。

 まず、お腹にいるのはワタシ。
 どんな可能性だってあるワタシ。

 なんか、今までの自分を否定する存在になりそうで怖い。
 あの時、もっと頑張ってたら、こんないい子になったのにとか。
  6歳の時、学校に行くのが嫌だって、毎日お母さんに送ってもらったこと。
 手のかかる子供だったんだよね。
  9歳の時、ピアノのお稽古が嫌だって、やめちゃったこと。
 もっと頑張ってたら、ピアニストにだってなれたかもしれない。
  10歳の時はスイミングスクール。
 もしかしたらオリンピック選手になれたかも。
 他にも思い当たることって色々いろいろ。

 わたし、要らない子なのかな?
 そう思ったら、わたしのお腹の中にいるワタシが悪魔に見えてきて、泣きたくなってきた。

「やっぱりイヤだ!私っ!生みたくない!」
って言った時には、もう遅くて、私の行動は周囲に混乱を呼んだだけだった。

混乱の中、私はいつの間にか自宅を離れていた。
いつ、どのようにしてここへ移動したのか覚えていない。
埃だらけの窓からは、今にも紫紺から漆黒へ沈んでしまいそうな西空。

まだ小学生だった頃、ここを秘密基地にしてた。
私が小学校へ入学するかどうかという時、近所のやったら敷地のでかい電機工場が撤退した。
その工場跡地は商業用地にするにも面倒で、パチンコ店にするにも大きすぎて、
今に至るまでこうして工場建屋も取り壊されることはなく放置されたまま。
当然正門とか正規の出入り口は固く封鎖されたままだけど、
ある日、上級生が工場敷地を囲む水路跡から中へ通じる出入り口を見つけた。
そしてその上級生の仲間内でだけ、その出入口の存在が共有される。いつしか、この工場跡は巨大な秘密基地と化した。
……とはいっても、大半の工場内施設には鍵がかかっており、子供に出入りできる範囲は限られていた。
いつの間にか座っていたこの事務所は、その出入りできた場所の一つ。
跡地正門からいくつかの建屋を通ってほぼ真向いの位置、高い外壁の際に建つ小さな建屋の一階にあり、
外から見られる心配はなかった。
「何やってんだろう……」
力なく放たれた言葉は、沈黙を際立たせる効果しか持ちえない。
誰もいない、この空間。世間的には完全に見捨てられた、この場所。
でも、学校という居場所をまず奪われ、そして家という居場所もなくなった自分には、ここしかなかった。
無意識にここへ来てしまったのが、何よりの証拠。
呆然たる独り言は、部屋が夜の黒へ沈もうとしている中、縷々と続けられる。
「ここへ来て何がどうなるというわけでもないのに……」
しかし突然、電灯が点けられた。自分以外誰もいないはずの、この事務所で。
そして目の前には、顔見知りというにはあまりにも見知りすぎている、基地仲間たち。
「やれやれ、探したぜ。でもまりあなら、真っ先にここへ来ると思ってたけどな!」
そう、ここへ入れるとしたら、自分と同じくここへ出入りしていた彼ら以外、ありえなかった。

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