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何の教訓も意味も無い話
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何の教訓も意味も無い話 2


また別な日、別な患者が来て言いました。
「先生、右手の人差し指を突き指してしまいました。何とかしてください」
「ふうむ…」
お医者さんは患部を見て言いました。
「…わかった。では右腕を切り落とそう」
「ちょ…ちょっと待ってください!たかが突き指ぐらいで右腕を切り落とされたんじゃ適いませんよ!というか指でも手でもなくて腕なんですか!?」
「まあ良いから私の話をお聞きなさい。そのまま放っておいたら…(中略)…やがて君は死んでしまう。切り落とすしかないのだよ」
こうなると患者も「名医と言われている先生の言う事なら間違いあるまい」と考えて納得しました。
こうしてお医者さんはその患者の右腕を切り落としてしまいました。

お医者さんはいつもこんな感じでした。

ある日、お医者さんに左足を切り落とされた患者と、右腕を切り落とされた患者が町でたまたま出会って、お医者さんの事についての話しになりました。
「僕はほんのかすり傷で片足を切られてしまって、仕事も失ってしまったんだ。一時はあのお医者さんを心の底から恨んだよ。でも片足を無くした事で、今まで気付かなかった色々な事に気付く事が出来たんだ。今は新しい仕事に就いて何とか暮らしも安定してきた。もうあのお医者さんへの恨みも無いよ」
「そうか、僕も似たような事情だよ。お互い、ある意味では、あのお医者さんのおかげで新しい境地に至る事が出来た訳だね。そういう点では、確かにあのお医者さんは“名医”なのかなあ?」
「いや、でも僕の知り合いの中には、あのお医者さんに両足を切り落とされて絶望し、自ら命を絶ってしまった人もいる。みんながみんな…という訳にはいかないようだよ」

そんなある日の事、お医者さんは右手に小さなケガをしてしまいした。
「放っておいても数日で治ってしまうような軽いケガだが私は医者…いちおう処置をしておこうか」
そう言ってお医者さんは傷口を消毒して薬を塗り、清潔な布を当てました。

ところが翌日、お医者がケガをしたという話を聞いた、今までの患者さん達が大勢でやって来て言いました。
「お医者さん、右手におケガをなさったそうですね。あなたが今まで私達に行ってきた治療法にのっとれば、右腕を切り落とすべきでしょう。しかしご自分の腕を切り落とすという事は大変な事…。ですから私達がお手伝いをいたしましょう。なあに、お世話になったご恩返しですよ」
「いや、皆さんの気持ちはありがたいが、そんな事をする必要は無いよ。ほんの軽いケガだからね」
「はてな? あなたは今まで、その“ほんの軽いケガ”で私たちの手や足をスパスパと切り落としてきたのに、ご自分のケガだけは別の話だとおっしゃるのですか?」
「ううむ…」
お医者さんは困ってしまいました。
確かに患者さん達の言う通り、ここで自分の腕を切り落とさなければ、今まで自分が行ってきた事にすじが通りません。
しかし右腕を失ってしまったら、お医者さんとしての仕事を続けるのは難しくなってしまいます。
それは困ります。
「ううむ…うううむ…」
困り果てたお医者さんは何も言えずに難しい顔をして、ううむ、ううむ、とうなり続けました。
すると患者さん達は「決心が付かないのでしたら私たちがやって差し上げましょう」と言って、お医者さんの体を取り押さえると、とうとう右腕をスッパリと切り落としてしまいました。

その後、右腕と一緒に医者の仕事と自信も失ってしまったお医者さんは人生に絶望し、あっさり死んでしまいましたとさ。

「全く、名医とはとんでもない。全くのへぼ医師じゃないか」
ある男がぼやくと、

「些細な事で腕とかを切り落としてきた報いを受けただけだよ」
「西の国だと腕とかを切り落とすような治療は一切しないそうだが」
「だったらその西の国の医師を連れて来れば良かったんだよ」

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