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権兵衛
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権兵衛 2

……この怪しげな男は私よりもうら若き乙女の元へ、いや、それではその乙女に甚だ迷惑であるのでこの男は交番に行くべきだったのだ。

夜の闇にとっぷりと溶けてまとまっていく思考に切り込む声に、私は眼前の男に目線を向けることとなった。
「佐藤さん、よろしければ名前を教えて頂きたいのですよ」
宵闇に深く沈み込んだ私の思考をいとも容易く引き戻した男の質問は再び私を混乱の渦に突き落とすには充分なものだった。
私の名前なら全て表札に書いてあるというのに「名前を教えて頂きたい」等と矛盾に満ちた質問に何故答えねばならないのか。
甚だ理解しかねるその言葉に私はただ言い放つ
「は……?」
男も発言の不審さに気がついたのだろう、嗚呼と独りごちるとただ淡々と口を開いた。
「貴方の名前を聞いている訳じゃあないんですよ、私が知りたいのは私の名前、名前を忘れてしまったから知り合いである貴方に名前を問いに来たのです」
………知り合い?
不躾にも真夜中に人を訪ねるような男が私の知り合いにいただろうか。

よく見れば母校の教師の岡本権兵衛に似てなくもないし、歳の離れた友である長髪の山田権兵衛に似てなくもない。
いや、この間飲み屋の前で吐いていた眼鏡の鈴木権兵衛にも似ている
背中をさすっただけの仲ではあるが実に気前のいい男であった。

3人とも最近会っていないので自信はないが、心当たりが浮かんでしまった以上この男を無下にもできない。


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