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太古記
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太古記 2

問い詰められた青年は物憂げに応えた。
「オイラには無理だよ」
「情け無い…その剣が泣いているぞ!」
見れば青年の腰には立派な宝剣が下がっている。およそムシロ売りの百姓には不相応な代物であった。
「…そりゃあオイラだって出来る事なら官軍に加わって黄巾賊を討ちてえさ。でも年取った母ちゃん残しては行けねえよ」
「そういう事だったか…ならせめてそのムシロを官軍に寄付したらどうだ?」
すると青年はフッと微笑んで言った。
「今の官軍に必要なのはムシロじゃねえ。状況を見通して作戦を立てられる指揮官さ」
「ほう…」
男は黙り込んだ。この青年、ただ者ではないようだ。
「…まだアンタの名を聞いてなかったな。俺様は張飛、字(あざな)は益徳だ!」
「オイラ劉備、字は玄徳ってんだ」
「劉…?」
「ああ、オイラ漢皇室の末裔なんだ。この剣は先祖代々受け継がれてきた家宝さ!」
「そいつは凄えや!酒はイケるクチかい?」
「おう!良い店知ってんだ。共に天下について語ろうぜ」
なぜこの事が酒と結び付くのかは謎である。が、当人達はそれで良いようであった。

劉備は張飛を連れて町の居酒屋へやって来た。
「申し訳ありません、あちらのお客様と相席願えますか?」
店主に指し示された机には、見事な顎髭を生やした一人の男がいた。身の丈は張飛よりも大きい。
「ありゃ!?関羽じゃねえか!」
「おお、劉備殿!お久しぶりでござる!」
「何だ、知り合いか?」
「ああ!五年前、山西の地で知り合った友達だ。関羽、コイツは張飛」
「張飛益徳だ。よろしくな!」
「関羽雲長と申す」
「ふむ…どこかで見た覚えのある顔だが…」
考え込む張飛に関羽は小声で言った。
「指名手配書でござろう…?」
「おお、そうだった!河東郡で悪逆非道の領主共を殺して逃亡中のあの豪傑だな!」
「しぃーっ!!声がデカい!」
「あ…すまんすまん!ハッハッハッ!!いやあ〜、今日は二人も凄い人物に出会えたな!」
張飛は上機嫌で店主に向かって言った。
「オヤジ、酒をじゃんじゃん持って来てくれ!生涯の友と飲むには樽ごとあっても足りんからな!」
いつの間にか生涯の友にされた劉備と関羽であったが、嫌な気分はしなかった。
「それじゃあよ、せっかくだしオイラ達三人で義兄弟の契りを結ばねえかい?」
「良いじゃねえか!」
「うむ、異存は無い」
一瞬で話がまとまり、三人はこの場で義兄弟の杯を交わす事に決めた。
「「「我ら天に誓う!我ら三人、生まれた月日は違えども、死す時は同年同月同日を願わん!!」」」
ちなみにこの居酒屋の店名は『桃園』と言った。


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