殺し屋のあなた 20
「邪魔するよー」「するなよ。まだ開店七時間前だろうが」
再びディルの酒場だが、店先には『寝てます。起こさないで下さい』の札。
時間は午前十時で、アフターファイブから始まる酒場の店内は、もちろん開店の準備はできていない。
そんなとこにやって来たレイト・フランクルは
「そういうなよ。俺等の仲じゃん」と言って机の上に上げられたいすを勝手に下ろして座った。
「お前と酒をかわしたことはないな…勝手に俺等なんて言われると気分が悪いな…」
ディルは呟くように言い捨てる。
「つれないねぇ〜。ルナって奴にはあんなに優しいのにさぁ〜」
「あいつは例外だ。用件はなんだ?場合によっては…」
ディルの目が光る。
「お〜こわっ!昨日の一件のこと。あいつらが守ったって奴は…」
「さぁな…。」
ディルは話の内容を聞いているのか聞いていないのか…
「とぼけてないでさぁ〜。金なら払うし!」
「お断りだ。お前はルナの恐ろしさを知らないんだろうな…。ルナを怒らせることは極力避けた方がいい。」
「あんな女が恐いのかぁ?大の男が…」
「アイツをなめてかかると後が大変だぞ。こっちの世界で生きるならな…」
ディルは一言だけ忠告をした。
「頑固な奴!」
レイトとそう言い捨てると店を出て行った。
「迷惑かけたな…」
レイトが出て行くと、奥の部屋からタキが出てきた。タキはばつわるそうな顔をしていた。
「いいってことよ。本当にルナを怒らせると恐いからな。」
ディルは笑って言う。
「あの嬢ちゃんは何者なんだ?」
「見たまんまだよ。ただ…人より強いだけ。それだけに人より思い十字架を背負っている…心優しい女だ。」
「嬢ちゃんなら裏の世界で生きなくてもよかったんじゃ…」
「まあな…。でもこの世界で生きることをアイツは望んだ…。心優しい故に…。俺も思うよ。なんでルナみないな女がこっちの世界にいるのかって…」
ディルは溜息をこぼしながら呟く。
「嬢ちゃんの過去を知ってるのか…」
「ああ…。ルナの過去はラストの奴より残酷なものだよ。まぁ、ラストの奴と一緒に生きるようになってルナには笑顔が戻った。俺はそれでもいいと思ってる…」
ディルはしみじみ語る。タキは何も言わず、ただ話を聞いていた…。
「ルナは・・・望まれて生まれ来た人間じゃない」
ディルは目を伏せた・・・。しかし、タキは真っ直ぐにディルを見つめる。
「俺だって望まれて生まれてないぜ」
「お前の場合は、両親が望まなかったんだろ?」
「・・・まぁな」
「あいつは違う・・・」
タキは少し首を傾げた。そして、頭の中でその原因以外の理由を探した。
しかし、答えはでなかった。
「誰に望まれなかったんだい?」
「・・・・・・だよ。あいつは生まれてはいけなかったんだ。なんとなく・・・わかるよな?」
「・・・信じられんな」
「俺も信じたくはない」
ディルとタキは、それからは無言だった。