悪魔の力を借りる―破壊の力―『黒魔法』
悪魔の力を必要としない―再生の力―『白魔法』
僕たちは白魔法をこうよんでいる。
『錬金術』と――


傾く太陽、赤い大地。その上を“テア”と呼ばれる巨大な狼たちが、かなりの速さで走っている。テアにくくりつけてある荷物が揺れる。
先頭のテア乗りが前を向いたまま口を開く。
「絶対に“奴ら”を侵攻させる訳にはいかん」
ゴーグルをつけたテア乗りたちが一斉に腕を振り上げた。
テア乗りたちの視線の先には、地平線を埋めつくしている兵士たちの群れ。
テア乗りたちが、腰の左右につけた剣を両手に握ると、雄叫びをあげて地平線の中に消えていく。
「位置につけ」先頭のテア乗りが合図をする、兵士たちをなぎ倒しながらテア乗りたちは各自どこかを目指し、そして止まる。
「いくぞ！！」次の合図と共にテア乗りたちは一斉に荷物から杖を取り出し、それを地面に突き刺した。
杖から青い光の線が伸びていく、線は他の杖の線と混じり合い、大地に巨大な召喚陣を描いた。
「逃げるぞ！！みんな、生きて帰れ、これは命令だ！！」先頭を走っていたテア乗りが言う。
兵士たちが群がる中、一人の少年がテアにまたがっていた。少年は両手に握った剣を巧みに使い、兵士たちを黙らせた。
　──早く逃げないと、召喚に巻き込まれる…
少年のテアは混乱した兵士たちの間を縫って走る。
風のように走るテア、しかしその勢いが急に途絶える。
「ここから先は通さん…」
少年が見上げると、目の前に鉛の鎧を着た大男が仁王立ちをして、鉄球を振り回していた。
「こんな時に…」少年はボソッと呟いた。
「ガキか…悪いが手加減はせん主義だ、己の運を恨むんだな」
大男は鉄球を少年にむけ投げつけた。