Hidden 3
旨かった。チャーシューは口の中に入ると、とろけて無くなってしまった。一瞬何かの化学反応かとも考えたが、深く考えるのは止める事にした。
「これ、旨いな」
「だろ〜?俺なんてこのチャーシュー食べる為だけに生きてる気がするぜ」
コイツ馬鹿か…。とは考えたものの、口に出して言ったりはしない。ここでそれを言えば協調性に欠けると思われかねないからだ。
俺は礼を尽くす、第2の人生はそうやって生きたい…
「今日はありがとう」
帰り際に俺はそう言った。その言葉には護身用の銃を使わせないでくれてありがとう、という意味も込めたつもりだ。
光秀は笑顔で手を振って帰っていった。俺はいつも通り警戒しながら学校へ戻っていく、勿論裏の塀を飛び越えて入って行く。
「お帰りなさいませ」
白い頭と髭をした男が俺を迎える、使用人の“チャップリン”だ。本名かどうか分からない、データなどが全くないのだ。共に組織を抜けた仲間である。
「いつもありがとう」
彼の顔を見ると自然に礼の言葉が出てくる。そして心からそう思っている。
校長室の大きな椅子に座ると、チャップリンが紅茶を持ってきてくれた。俺はそれを口に含む。リンゴの香りがする紅茶が、口の中の油を洗い流してくれた。
普段はこの椅子にチャップリンが座っている、俺が情報をいじってチャップリンを校長にしたからだ。これが俺達の第2の人生の形。来年は俺も高校三年、その翌年は…まだ考えていない。
「今日はお友達とお食事でしたか?」
「ああ、だから夜ご飯はいらないんだ、すまない」
「いえいえ、いいんですよ、お友達は大切にしてください、それでは私は地下の図書室にいきますので、御用があればなんなりと」
そういうとチャップリンは頭を下げて部屋を出ていった。彼は今は穏やかな人だが、昔は戦時中にも活躍した暗殺者だったと聞いている。
「さてと、稽古でもしに行くか」
俺は愛用の“銀牙”手にすると、一階の階段脇にある扉の鍵を開けた。夜という事もあり、地下への道は真っ暗だった。
地下への階段を照らす物は何もない。これは夜間敵に襲われた時を想定して、あえて何もつけていないのだ。
暗視ゴーグルなんて物が出回っているが、この通路ではそういった機械は全ておじゃんになるように細工してある。
毎日ここを通る俺は目隠ししても、侵入者を殺る自信がある。唯一弱点があるとしたら、それはこの刀“銀牙”だろう。
銀牙は俺の感情に合わせて銀色の光を放つ。俺は幼い頃から常に冷静でいるように訓練してきた。だからそれをあまり気にしてはいない。