無題 1
あのとき、素直に「好き」と言えていたら・・・何か変わったのだろうか?
私―田中悠は今年の春、大学に進学した。良くも悪くもない普通の4大。
特にしたいことがあったわけではないが、周りもみんな進学していたし、なんとなく私も進学を選んだ。
普通に勉強して、普通に遊んで・・・そして、普通に恋愛をして・・・普通に大学生活を楽しみたいと思っていた。
「悠!」
教室に入ると見知った顔が目に入った。
「慶太ぁもぉこの大学ぅ〜?」
彼、如月慶太は高校時代のクラスメートだ。
確かに、この大学を受けるとは聞いてはいたが、慶太の頭を持ってすれば、もっと上の大学に行くとばかり、悠は思っていた。
嬉しかった・・・
「ああ、全部落ちた。唯一ここだけ引っ掛かった。」
愛想なく答える慶太。
その表情は決して明るくはなかった。
「慶太は優秀だもんね。私なんてここに入るのだって精一杯だったのよ!」
悠は照れるかのように、慶太の背をパンパンと叩いた。
「ははは!痛いよぉ〜。悠はいつも明るくていいよなぁ」
「そ、そう・・そんなことも無いけど・・」
「嬉しいよ。」
「えっ?」
「悠と同じ大学に来れて、嬉しい。」
慶太は窓からの日を浴びて、爽やかに微笑んだ。
「ははは、そーゆーことは、好きな女の子に言うもんよ!私じゃなかったら、誤解するって!」
悠は再び、慶太の背をパーンと叩いた。
「い、痛てって、悠・・」
慶太は笑顔のまま、椅子から立上がる。
「まあ、それもそーだな。俺が悠を好きになる訳ないし、ただの友達だもんな。」
慶太はコキッと首を鳴らし、ポリっと鼻の頭を掻いた。
「そ、私たちは友達。女と男の間にも友情が成立するってことを、証明しましょ。」
「ああ・・てか、俺・・友達と呼べる程、悠のこと知らねーし・・」
「それもそーだぁ・・これから友情ごっこの始まり始まり〜って感じですかぁ?」
「おいおい、ごっこでいいのかよ・・」
ぷっ!
慶太と悠は互いの顔を見つめ合い、腹を抱えるように笑った。
あの時、何故あんなに可笑しかったのだろう?と今でも思う。
お腹が痛くなる程のことは無かっただろうにと思えたが、それも慶太と一緒だったからなのだと、妙に納得してしまう。
今でも蘇るあの時の慶太の笑顔。
目尻に皺を作って、クチャクチャの顔で白い歯を見せていた。
時折、口を命一杯に開き、喉奥の突起を揺らしていた。
あの笑顔を思い出すだけで、私の頬は自然と上がる。
そして、鼻奥がツーンと白んで、胸が熱くなる・・・
あのときから私は、確かに慶太を「好き」になっていた・・・