結婚する条件 1
別にあせってなんかない。
いくら今働く女性が多くても、毎年寿退社していく女の人は普通にいる。
先輩、同期、そして後輩……。
「あ、おつかれさまです」
二個下の睦美ちゃんも来月はその予定。
幸せオーラ全開。そんな派手な私服でもないのにキラキラしてる。
「お疲れ、準備は順調?」
「はい、順調です」
薬指の指輪がキラッと光ったように見えた。
結婚相手は噂ではエリートらしい。
可愛いし、愛想もいいし、モテて当然だよな。
それに比べて私は……
溜め息をつきながら、エレベーターのスイッチを押す。
時計を見ると7時を少し過ぎていた。
「睦美ちゃんの今日のこれからのご予定は?」
「はい、これからお料理教室に行きます」
「そっか、花嫁修行……ってやつ?」
「まぁ、そんな感じです」
エレベーターに乗り込み、一階のボタンを押す。
「何か幸せオーラ前回だよね。睦美ちゃん」
「えーそうなんですか?」
「うん、キラキラしてるよ」
一階まで止まることなく行くかと思ったが、五階で止まった。
「あ、石田さんお疲れさまです」
「お疲れ」
睦美ちゃんには爽やかな笑顔を向けるが私にはチラッと見てすぐにそらしてきた。
「一階でいいですか?」
睦美ちゃんは、そんなことにはまったく気づいてない。
ていうか、知らない。
「ありがとう。一階でいいよ」
ドアが閉まる。
「幸せオーラか…」
ドアが閉まると睦美ちゃんは顎に指を指し、考えていた。
「先輩は?」
「は?」
「予定ないんですか?結婚の」
「………」
今吹き出す声したんですけど。
そういえば、天然である前に睦美ちゃんは空気が読めないことで有名だったんだ。
「今のところはないかな……結婚は」
顔がひきってないか心配だ。