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教卓の向こう
恋愛リレー小説 - 青春

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教卓の向こう 10

「今日の夕方にはね………」



教師が大雨を伝えようとした瞬間………



――ザァッ



何の前ぶれもなく一気に雨の束が落ちてきた。



「うそ、大雨!?」



呆然としていた千尋は慌てて、スケッチブックに展示用の下書きの紙を挟んだ。



視界が見えにくいくらい雨は落ちてきて、



「大丈夫?早く避難しよう」


教師は千尋の荷物を半分以上抱えるように持ち、先を急いだ。


千尋の髪も教師の髪も水を含んで形が変わり、全身ビショビショになりかけていた。



「すべりやすいから気を付けて」
「はい」


視界が見えにくいので前を見失いそうになった。



「はぁ、はぁ」



ようやく校舎に逃げ込んだ。



こんなに必死で走ったのは久しぶりかもしれない。


千尋は隣で息をあげている教師に



「あの……すいませんでした。大雨の予報が出てるなんか知らなくて」
「あぁ、いいっていいって」
「でも……」



全身が雨に塗られた姿。しかも ス―ツは高そう。千尋は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



「それよりも怪我とかない?」
「……………」



明らかに自分が悪いのに、こんな生徒思いの優しい言葉をかけられ、千尋の目からは、



「…………あ――えっと、どこか痛いのかな?足?それとも膝?」



自然に出た自分の涙に慌てる姿に千尋は思わず笑ってしまった。
涙を人指し指で払いながら、


「……ありがとうございます。おかげで……助かりました」
「いえいえ。あ、それよりもさ」
「?」
「絵大丈夫?」
「あっ」



千尋は指をさされたスケッチブックを慌てて確認した。



髪は水分を含みすぎて、ふにゃふにゃを越えたふやけ度。


鉛筆の先は何を表しているのかわからない。


うわ、ダメだ、コレ。
と、千尋は見た瞬間思った。



「ダメですね。……でも、下書きで良かった」
「……それ、文化祭の展示品だよね?」
「そうです、でも平気です」


千尋は心配させないよう精一杯の笑顔で答えた。


「それに先生も私が悪いんですから、気にしないで下さい。………それよりも早く着替えないと風邪ひくかも」


震えを感じた。
千尋と教師は、ほぼ同時にくしゃみをし、


次の日、二人は休んだ。


「まったく、ビショビショになって帰ってくるから、今日は一日寝てなさい」

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