教卓の向こう 8
いきなり、そう言い出したのは、彩乃だ。
葉山派は一瞬静まりかえったが、
「まっ、敵は少ない方がいいよね」
「ていうか、彩乃は彼氏いるじゃん」
「まぁ、そーだけどさ」
女子校ということもあって、彼氏がいる子は共学に比べれば限られてくる。
黙っているという例もあるだろうけど、
千尋の知る限りでは
、彼氏がいるのは彩乃くらいだ。
「何で篠崎先生がいいの?」
席に戻ると千尋は彩乃に聞いた。
「んー何かミステリアスじゃない?篠崎先生」
「……あぁ、わかるかも」
千尋は思わず納得してしまった。
今朝の葉山との険悪ムードがいい例だ。
「千尋は?」
「えっ?」
「どっち派?」
どっち派か。千尋は一瞬考えるそぶりを見せたが、
「私はどっち派でもないよ」
「ハハッ、もー千尋ってばクールなんだから」
彩乃は、はしゃいだ声をあげた。
「でも、万が一付き合うことになったら篠崎、結婚するなら葉山……そんな感じじゃない?」
一番クールなのは彩乃じゃん。
と千尋は頷きながらそう思った。
彩乃との付き合いは、ここの女子校に入ってからだった。
入学式の時、席が隣通しだった。
それが、きっかけで友達になった。
あまり目立つ存在ではない自分に比べ、彩乃は、聞き上手、喋り上手。
頭の回転が早くて自分がどうすれば目立つかを本能で知っているようなタイプ。
顔立ちも学年で五本の指に入る美人。
そんな彼女に誘われ美術部に入った。
まぶしかった。
彩乃の隣にいることが。千尋にとって。