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教卓の向こう
恋愛リレー小説 - 青春

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教卓の向こう 4

「あぁ、えっと…美術部?一人だけみたいだけど」
ギクッと千尋はすぐ反応したが、
「美術部は名だけですから」
あっさりと答えた千尋。誰の目から見てもあきらかな事実だ。
「ハハッ、名だけね」
「はい、だからバレちゃったし…部活なくちゃっちゃうかな」
困ったように笑う千尋に篠崎はえっ?と言葉を返した。
「あ、このことは言わないでおくよ。教頭や他の先生には」
パッと千尋の顔が明るくなった。
「ありがとうございます」
安心したように口元を緩ますと落ちた消しゴムを掬いあげ、消しそこねた部分の下書きを丁寧に擦った。
「へー上手いね」
「えっ」
いつの間にか真後ろに立っていた篠崎が絵を覗き込んでいた。スケッチブックの紙には美術室で一番目立っているオブジェをデッサンした走書きの線。
千尋は慌ててパッとその絵を掌で隠した。
「あ、ゴメン。勝手に見たりして」
「いえ……いきなりだったからびっくりしちゃって」
ゆっくり掌を外すとまた鉛筆の線が見え、千尋は小さく笑った。
「それに……上手くないですから」
篠崎は改めて絵をあらゆる角度からジッと見つめ返した。そして最後に首を傾げた。
「そうかな?どう見ても俺には上手く見える」
「ありがとうございます。でも、下書きだけじゃ絵の才能はわかりませんよ?」
素直に言葉を嬉しく受け入れつつ、キツク言葉を返した。パレットに乗ったカラフルな絵の具の色でお化粧するみたいに色を乗せていく瞬間が千尋は一番好きなのだ。絵を生かすことも殺すこともできる…そんな緊張感がまた千尋は好きなのだ。

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