All right 26
「……少しは落ち着いた?」
「……うん」
その頃、茜とさくらは学校の中庭にあるベンチに移動していた。
というのも、茜が泣き出した場所が渡り廊下だった為、行き交う生徒達の視線が痛かったからだ。
「目、腫れちゃったね」
「……うん」
まだ少し鼻を啜ってはいるが、茜も大分落ち着いたようで、さくらが話し掛けるのにも一応答えていた。
うつむき加減の茜とは反対にさくらは空を仰いだ。雲も少なくいい天気だ。こんな日はすべてがうまく行くものだ。
だから、と軽い笑みで目を細めた。
茜はきっと大丈夫だろうと、そう思う。
きっとさくらたちが何を言おうと、茜は自分のしたことを悩むだろう。当たり前だ。そう簡単に頭を切り替えられる訳がない。
それでも、もう独りで無理はしないはずだ。
しばらくは危なっかしいところもあるだろうけど、そこは自分が支えたりしてやればいい。
立ち止まるだけでは意味が無いことを、茜はもう絶対に解っている。
茜は強い。今回はその強さが自分を傷つけてしまって、すれ違いを生むことになったけれど。
たとえ少しずつでも自分の過ちや失敗や足りないところを認めて、それを良くしていこうと思えるなら、いつかと前置きしてでも必ず自分の為したことを笑顔で語れるはずだ。
そうなれるように、自分も気付いたら支えるつもりだ。頼りなくても、間違いばかりでも、二人分ならきっと。
「あのさ」
とりとめもなく広がっていく思考をさえぎったのは茜の声だった。だからと視線を戻せば、隣にはわずかにうつむいた茜の横顔がある。
そこにいくらかの疲れはあるが、でも確かに意志もある。
さくらは黙ったまま続きを待った。急くことでもないし、茜にも思うところがあるのだろうから。
数秒の間を挟んだ後、茜は静かに、しかしはっきりと、
「――さっきは有難う」
「……ん」
対しさくらの返事は簡潔だった。しかし今さくらが言うべきことはないし、茜だって答えが欲しかったわけではない。
沈黙の中、軽く吹いた風で二人の髪が揺れた。
大丈夫だ、きっと。
心地よい風を受けながらさくらはただ笑みで空を見上げていた。
うっすらと色づいてきた夕闇の空を見上げていると、風に乗ってどこからか男の声が響いてきた。
「どういうことだ!」
その声にただならぬ気配を感じた2人は顔を見合わせると、どちらからともなく声のした方へと向かう。
植木の下に身を潜めると、顔だけ出して様子を窺う茜。さくらは茜の後に着いては来たものの、その場を支配する不穏な空気に圧倒されて、覗き見するのをためっているようだった。
夕焼けに照らされた特別授業専用の校舎。