ミニスカポリスを捕獲せよ 3
「私たち二人、警察寮に住んでるから、無断外泊はまずいんですけど?」
少しでも情報を…と、とにかく法子は『それ』に話しかける。
「さっき取り上げられたスマホに、所在確認のために連絡が来たりするんですけど」
「先輩曰く、『恋人とのデート中にかかってくると殺意が沸く』と」
「……」
「ちょっと、反応しなさいよ」
「法子、無駄」
「何が?」
「私の予想だと、私たちの外泊届けが出されてる」
「はぁ?」
「下手すると、代返役までいる」
「……」
「かなり大掛かり……というか、絶対警察内部にも、こいつの仲間が居る」
どこかの名探偵よろしく断言した恵に対しても、『それ』はノーリアクション。
「……カマをかけたけど無反応」
「え、でまかせだったの?」
『それ』とは対照的に、良いリアクションの法子である。
「……この状況で、法子は随分と余裕が有る」
「いや、まあ…ねえ」
法子はじゃらりと鎖を鳴らして、ため息をついた。
「どうしろってのよ…」
「……どうにもできない」
不本意そうに、恵が呟いた。
「行き先を隠そうともしなかった。大声を上げても平然としてる…ブラフの可能性は否定できないけど、私たちを生きて返すつもりがないか、この場所がそもそも捨て拠点に過ぎないか…」
法子は再びため息をつき、自分と同じように鎖付きの革手錠を天井のフックに吊られ、肩幅の倍ほどに広げた足をバーと枷で固定された恵を見つめた。
「恵の方がよっぽど余裕があると思う…」
「…殺されるにしても、法子といっしょならそう悲観する最後でもない」
「……」
「さて」
ほとんど喋らなかった『それ』が発声したことで、法子と恵はほぼ同時にそちらに視線を向けた。
「隣の部屋には、ミニスカポリス隊のおふたりに、是非お礼がしたいという連中が集まっていまして」
「申し訳ないけど、個人的な金品授与は禁止されているの」
法子の頬にさっと朱が散ったのとは対照的に、恵がさらりと軽口で応じた。
「あなたたちに与えられるモノは、目に見えるモノではありませんので」
「…それだけ?」
「さあ……私は、彼らにの意向を汲んでお膳立てしただけですので…」
『それ』が、苦笑を浮かべつつ首をかしげた。
「まあ、おそらくは普通の女性には味わえない貴重な体験ではないかと」
「官憲冥利に尽きるわね…」
恵はわざとらしくため息をつき、法子を見た。
『それ』を睨みつけてはいるが、このあと降りかかるであろう己の運命を悟って、かすかな怯えが感じられた。
「……私一人でお相手するわ」
「恵っ!?」
「ほう…」
人間味を感じさせなかった『それ』の言葉に、初めて感情らしいモノが浮かんだ。
「やめて、恵。そんな…」
ガチャガチャと鎖を鳴らして抗議する法子を無視して、恵は言葉を足した。
「その連中、どうせ私の方をより強く恨んでるんでしょう?」
「……まあ、否定はしませんが」
「拘束させておいてなんだけど、私が隣の部屋にいいくわ。構わないでしょ?」
『それ』が、足かせとバーはそのままに、恵の両手を吊る鎖を外すのを見て、法子は更に暴れた。
「恵っ、恵ってば!」
「申し訳ありませんが、このまま歩いていただけますか」
「…ペンギンみたい」
体を傾け傾け、恵がドアに向かってえっちらおっちらと歩みだす。
「恵ぃ!」
恵は、ドアのところで振り返ると、何でもないように笑って言った。
「じゃあね、法子。素敵な紳士連中から、せいぜい搾り取ってくるわ」
「め、恵…」
そしてドアが閉まり、法子はただひとり取り残された…。
「…これ、外してくれる」
「ええ、今すぐ」
『それ』が、拘束具を外すのを、当然のように受け入れる恵。
ソファーに背中をあずけ、『それ』が用意した飲み物を平然と口に含む恵の姿を目にしたならば、法子はどういう反応を示すであろうか。
「あぁ、法子ったらあんなに怯えて…くすくす、可愛い♪」
モニターに映し出された法子の姿を眺めて、口元に笑みを浮かべる。
「……浮かれる状況じゃありませんよ」
「そうね…でも、ようやく法子を私のモノにできるかもしれない。浮かれて当然」
「……中学からの付き合いでしょう?怖い人ですね」
「ええ、正直、自分でも驚いてる…」
「……人の欲望は、突然心を飲み込むことがありますからねぇ」
「…そうかもしれない」
適当に相槌をうちつつ、恵は眼を閉じた。
見ているだけでは、ソバにいるだけでは我慢できなくなった。
愛とか恋とか綺麗な言葉ではなく、今の自分が法子に対して抱いているのはまさしく欲望であり、支配欲だった。
それを実感したのはつい最近のこと。