激甘恋物語 1
夏休み後半の海。
残り少ない夏を楽しもうとやってきた海水浴客の集まる砂浜から少し離れた場所を、俺は一人ブラブラと歩いていた。
「夏、海、とくればすることは一つだ。肇、わかるだろ」
「なんだよ?」
「ナンパだよ!」
ガキの頃から常日頃一緒につるんでいた悪友の浩平は自信を持ってそう言っていた。そんなことしてうまくいくのか、それはあえて聞かなかった。俺だって女の子にはモテたいけど。
今日だって本当は浩平と一緒に海に来るはずだった。まあ、正しく言えば家族ぐるみで昔からの付き合いである浩平の家族と、なのだが。
当日の朝になって浩平が熱を出してダウンしたのだ。
「一番躍起になってた兄がこのザマなんで」
浩平の妹の咲良ちゃんがそう言っていた。小6の咲良ちゃん、あの兄に似ず、なんとも冷静な子だ。いやよく言えば冷静なのだが、表情が暗いというかさえないというか。とても可愛いのにもったいない子だ。
「仕方ないなぁ、うちの家族もそうなっちゃったもんで行く気なくしてるし、ちょっと俺一人で行ってくるわ」
「あっ。肇さん、そんなことよりっ」
咲良ちゃんが後ろで何か言ってたようだが、声が小さくて聞き取れなかった。
そんな経緯があって、俺は一人で海に来た。空は曇り。日差しが遮られていてちょうどいい。
人でにぎわう場所からも離れると心が落ち着く、って、俺は何が目的で海に来たんだっけ。
「おっ」
砂浜に一人佇む女の子発見。黒髪ショートボブ、白のTシャツに黒のショートパンツ。あまり海に似合わない色白な子。中学生くらいかなぁ。でも、その、でっかい…胸。
「やあ」
軽く声をかける。彼女はこっちを振り向くと、はっと表情を変えシャツの胸元の部分を隠そうとする。ただそのデカさはそれくらいで隠れるようなもんじゃない。俺は目にしっかり焼き付けた。
彼女は頬をほのかに赤くしながら僅かに会釈した。
「君も一人?」
「は、はい」
「俺も一人なんだ。友達とナンパしようぜ!って言ってたら、その友達が熱出していけなくなって、一人でブラブラ」
「ふふっ」
ちょっと笑った。緊張がほぐれたみたいだ。笑うとさらに可愛い。
「俺、瀬川肇。君は?」
「相原美優、です」
美優ちゃんは俺との会話の最中も何か自分の胸を気にするしぐさを見せている。
「美優ちゃんは地元の子?」
「はい」
「俺は…(隣町の駅の名前)からきたんだけど…」
「そうなんですね」
美優ちゃんの笑顔は可愛い。だけど、その笑顔にぎこちなさがあった。
「美優ちゃん、何か気になることでもあるの?」
「あっ…………。肇さんは気づいてますよね…」
「うん?」
「私、この胸が、コンプレックスで…」
やっぱり。
「女の子は、大きすぎると大変なのかな。俺は、というより、男はそこにしか目が行かなくて…ごめんな」