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淫蕩王の旅
官能リレー小説 - ファンタジー系

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淫蕩王の旅 10

「ぐげっ、だれだぁぁ、ぐわっ!」
声だけは村長バウムの名残りとして滑舌は悪くなっているがそのままである。
蛙人間と化したバウムの体に細い糸のようなものが絡みつき、歪ませながら締め上げていく。部屋に飛び込んできて、片膝をついて両手を交差させている狩猟着の美女がちらりとバウムを流し目で確認した。
背の半ばまであるしなやかでまっすぐな髪がゆれた。
糸はとても強い素材なのだろう。蛙人間の柔らかいが弾力のある肌を切り裂いた。
マリーに血の雨が降る。
四散したバウムの肉片や手足が舞い、石床にぼとぼと音を立て落ちた。
「外道め」
美女の整った上品な顔立ちとはかけ離れた悪態がつぶやかれたのをたしかに聞いた。
立ち上がった美女は、血まみれで気絶しているマリーと、鎖につながれている股間以外は女性化した若者を見た。
殺されるのではないかと、一瞬寒気がした。
興奮がさめて恐怖にすりかわる。
ガチャンと音を立て壁の鎖が石床に落ちた。
美女は名乗りもせずに、バウムであった肉片と血だまりから、黒革の手袋をはめた指先で何か小石のようなものをつまみ上げて拾い上げた。
鎖はバウムを切り裂いた見えない糸で切断されたらしい。
美女は二人に危害をくわえることなく立ち去っていった。
のちに若者はこの美女と再開することになるのだが、それはしばらく先のことである。
血まみれの部屋で手枷足枷の鍵を探して外すと、気絶しているマリーをゆさぶって名前を何度も呼びかけた。
マリーが目を開き、ゆっくりと上半身を起こす。若者は泣きながらマリーを抱きしめた。
だが、マリーの表情は虚ろで、若者の名を呼んだりはしなかった。
ショックのあまり魂のぬけがらのような状態であった。
村長バウムの失踪。
ジェシカとマリーの白痴化。
村人たちはジェシカとマリーの保護を約束して、若者に村を出て元の体に戻る方法を探しに旅立つのが良いと言った。
(邪魔者は出て行けということか……)
村を出て森の入口で振り返ったとき、村の建物も見えなくなり、あたりは一瞬で白い霧で包まれてしまった。
村に戻ってみようとしたが、いくら歩いても村の入口にはたどり着けなかった。
村の住人たちは魔方陣の力をさらに強く解放して完全に村を封鎖してしまったのだった。
その影響は若者にも影響をおよぼした。
若者は、自分の名前やマリーやジェシカの顔を思い出すことができなくなった。
ひどく疲れて眠りに落ちたとき、夢でマリーやジェシカと抱き合っている夢をみる。
しかし、顔はのっぺりとして、ただ声なく唇だけがまるで何かを言いたげに開いている。
肌のぬくもりや柔らかさはとてもはっきりとしているのに。


……
……
くらい意識の底から、浮かび上がる。
覚醒が瞳に光を戻し、彼が目を開くと、目に入ったのは木の梁のある天井。

「うっ…」
頭はすっきりとしているのに、なんだか腰が怠い。
誰か女を抱く夢を見たような気もするが、おぼろげにしか思い出せず。
股間も確認したが朝立ちしているだけで夢精した様子もない。

「ここはどこ…だ?」
「お目覚めですか?」

まだぼうっとしている彼の前に、蒼い髪の娘がやって来た。
「ああ…何とかな。ここは?俺は確か…」
「貴方は先日の、街道の土砂崩れに巻き込まれたのですよ。大きな怪我こそ無さっていないようでしたが、頭を打たれたからでしょう、四日間目を覚まされなかったのですよ。申し遅れましたが、私はミュリネ。このエーディス施療院で看護をしています。今から先生をお呼びしますね」
ミュリネが部屋を出ていくと、外から彼女の声がした。

「マルティナ先生、患者さんが目を覚まされました!」
「まあ、あの殿方ね。すぐに行くわ」

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