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デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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デッドエンド 98

もし少しでも怒らせていたら、どうなっていたか。あそこは彼女らのホームだ。どうにでもやりようがあった。
「それに、別に急いでいるわけじゃない。ただ、以前伝えた予定より遅れそうだから、知らせる必要があるだけで」
エマの件でのひと月近くのロスは、もともと余裕を見ていた猶予期間で十分にカバーできた。
だがここであまりに遅れるとなると話が変わってくる。

こんなことなら、あの峰の連中からいくらかいただくか、散乱していた宝飾品の一つでもくすねてくるんだった。
直前に自分で言ったことも忘れて、私は後悔した。



一週間も待ちぼうけとなると、いい加減にすることもなくなってくる。
目的地までの旅費の計算や領収証書の整理も終わってしまった。遊ぶ気もないが、現金がないのでしたくてもできない。

部屋で一人、暇に飽かせてうたた寝をしていると、続き部屋の中扉をノックする音がした。
「クリス、お茶淹れたから一緒に飲も」

寝室の間にあるリビングスペースに入ると、すでにリオンが席についていた。
彼は私の姿を見るや、立ち上がってテーブルを回り込み、自分の向かいの椅子を引いた。
「どうぞ、クリス」
「ありがとう、リオン」
礼を言って座ると、リオンは上機嫌に自分の席に戻った。

最近はようやく馴れてきたのか、リオンの言動にいちいちドキドキすることもなくなっていた。
彼がどうやら何をするにも深く考えず、脊髄反射だけで生きているらしいと、私は気付きつつあった。上位ナンバーで、危険なことも(ハンゼでの誘拐は例外として)めったにないとなると、考えるのも面倒なのだろう。気持ちはわかる。
思わせぶりな言動の裏にある真意など、勘ぐるだけ無駄である。
そう思い、努めてレネーと同列に扱っているうちに、初めて異性と身近に接して舞い上がっていた気持ちも、落ち着いてしまったようだ。


リビングには宿の庭園向きのバルコニーがあり、シンメトリーに刈り込まれた生け垣と季節の花壇の造形が眼下に広がっている。
やわらかな日差しが室内に差し込む。
お茶の時間には少し早いが、レネーの注ぐ高級香茶の香り立つ湯気と茶菓子は、充分に気分を浮上させてくれた。
リオンはすでにカップに口をつけている。
レネーが席につくと、三人して、しばし無言が続いた。

一文無し同然の身の上であることさえ忘れれば、今この瞬間、私の心は平穏で、充足していた。
こんな時間の過ごし方があることを、数ヶ月前の私は知らなかったのだ。

レネーは香茶をすすりながら、本を広げた。
黒っぽい皮革の装丁に飾り文字がおされている。『第三の書』。
レネーの父の形見だという本のうちの一冊だ。
「魔法の勉強か?レネー」
「まあね」
魔法書なるものに興味が湧いて、私は彼の後ろに立って本をのぞき込んだ。
「…………レネー、こんなもの読めるのか」
「実はほとんど読めてない」

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