PiPi's World 投稿小説

デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 80
 82
の最後へ

デッドエンド 82

閉じた扇を、彼女はリオンの頬に触れさせた。
ひやりと冷たい感触に、触れられた方の頬が攣る。
「のう、ノエミ?」
ミュゲは部下を振り返った。
「あの水鏡も、便利ではあるが大したものではないのう。竜一匹と引き換えにするほどとは思えぬわ。あの老爺の名、何と申した?ノエミ」

「……スルツミでございます、首長」
ノエミは、数秒ためらってから、答えた。

リオンの息が一瞬止まった。
その面が驚愕にゆがむ。

だがミュゲは何も気づかぬ風に、そうそう、と手を叩いた。
「左様、『するつ身』じゃ。妙な名であろう?わしの竜が欲しいなどと申しおって、くれてやったはよいが、対等な取引きとは言えぬ。次に参ったら、差額を請求しておやり」
「…御意」
「スルツミ、だと?」
ノエミの敬礼を遮ったリオンの声は、震えていた。
めったにないことだ。その声には明らかに、畏怖の響きがあった。
「何でそんな奴と関わりが、」
「ただの取引き相手です」
ノエミはきっぱりとそう言い切った。そして、それ以上のことは何も語ろうとしなかった。

ミュゲは、二人の会話の意味がわからないようだった。
小首をかしげるしぐさが、やけに幼く見える。
「その目の赤いのは、下界では珍しゅうはないのですか?」
彼女はそう訊ねながら、扇で彼の顎をくいと持ち上げた。
「我が峰にも、これまで見た下界の者どもにも、このような目をした者はおらぬ」
彼の髪も目も、目立つ色合いではあるが、北方ではさほど珍しいものではない。
ハンゼはトルプテン大陸では南方に位置する国だ。加えて、ここのように他から隔離されたような環境では、遠方の人間を目にすることはほとんどないのだろう。
…と、リオンは考えたが、口には出さなかった。
ふむ、とミュゲは、視線を上下させて彼を眺めながら頷いた。
「器量は十分。声も、わしの好むところじゃ」
「では、」
決定が下ったかと、ノエミが顔を上げる。ミュゲは、彼女を手で制した。
「お待ち」
彼女は、ひどく楽しそうにリオンに手を伸ばした。気に入りの玩具で遊ぶ機会を、逃すまいとしている子供のようだ。

ミュゲの繊細な手指が、彼の髪を一本つまんだ。
と思うと、いきなり引っこ抜いた。
「いって!」
不意打ちにリオンがわめくと、ミュゲは声を立てて笑った。
「はは。すまぬな。かような髪は初めて見たのじゃ、許せ」
反省のかけらもない調子で、彼女はそう言った。
謝罪された気はちっともしないリオンだったが、ミュゲがあまりに無邪気にうれしそうにしているので、腹立ちが持続しなかった。
ミュゲはリオンの、光を弾く髪の一筋を両手の指につまんでシャンデリアにかざした。
「光っておるのう。美しいこと」
彼女は上向いた姿勢のまま、うっとりとささやいた。
「真銀の糸のようじゃ。あれは、触れると指が落ちるが…お前の髪は柔らかいの」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す