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デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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デッドエンド 44


ハンゼには天女伝説がある。
話の筋はどこの地方にもある異種婚姻譚と似たりよったりだが、天女の設定が少々特殊だ。
彼女たちは天頂と地上をつなぐ峰の、雲より上に住み、常に下界を見張っている。
そして時に天翔ける竜神を従え、金剛の槍をかざして降臨する。
天女の名に似合わない、闘争の象徴なのだ。
頭頂が霞がかって、しかも切り立って登ることのできない岩山の林立する地方だからこそ、生まれた伝承だろう。
ただのおとぎ話だ。
だが、そう言うと、女主人はとんでもないと手を振った。

「そりゃあ、絵本に出てくるような話は、ただのお話ですよ。でも、このあたりじゃあ、本当に出るんです」
先ほどの話の『信用できない』とは、その目的の部分のことだ、と彼女は告げた。
20年前後のスパンで、男の誘拐失踪事件が多発するのは、記録上事実だと言うのだ。

前回の誘拐が25年前。
また頻繁に起こるようになったのは、この数年のことだと言う。
だが、前回までは、旅人も含めて数人の、片手に足りる程度の男がさらわれたのみだった。
ところが今回は、わかっているだけでもう十数人は消えている。

「女たち、と言うが、見たものがいるのか?」
「もちろん。いつも岩場で隊商を襲うんだけど、顔の悪いのは残されるから、見てはいるんです。ただね」
しゃべりっぱなしで喉が渇いたのか、彼女はぐい、と自分用に注いだお茶を飲み干した。
「顔は兜で隠してるんですよ。女なのは確からしいんですけどねえ。どんな色狂いの女たちだか、全く、顔を見てやりたいもんですよ」
女主人の形容に、レネーが笑った。
「そりゃあ、おれも見てみたいや」
「坊やもずいぶんいい顔立ちだから、気をつけなさいよ。あいつら、いい男と見たら子どもだって容赦しないんだから」
彼女はレネーの冗談には取り合わず、心配そうにこう忠告してくれた。
「それより一番危ないのは、あんたたちのもう一人のお連れだと思うね。気をつけておやりなさいよ」

「は、」
レネーは、おかしな声を発した。
見れば、死ぬほどおかしな冗談を聞かされたような顔をしている。眉が下がり、唇がゆがむ。
ヒィ、と苦しそうに息を吸い込んだ。
気持ちはわからないでもないが、私はリオンを少し気の毒に思った。

「誰の心配しても、リオンの心配だけはしなくていいよね」
レネーは、私に同意を求めてきた。
「誘拐されるリオンとか、間抜けすぎてちょっと見てみたいくらい…って、痛って!」
頭からカチッ、と音を立てて、レネーがテーブルに突っ伏した。
床に小さな石ころが落ちる。
飛んできた方向を振り返ると、宿の入り口にリオンが立っていた。石を投げた姿勢のまま。

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