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デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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デッドエンド 148

心配するのも筋違いか、と彼は一人納得した。

肩にかかるささやかな重みが、心地よかった。
さらりと、くせのない黒髪が軽やかに揺れて、彼の頬をくすぐる。そこはかとなく花の香りがした。宿の洗髪剤の香りだなどと、野暮を言うつもりはない。クリスの匂いだ。
 「……」
刺すような殺気にさらされて、レネーはため息をついた。
「…席かわってほしいなら、口で言えばいいのに」
「わかってるじゃねえか」
大人しく前を向いていたはずのリオンが、いつの間にか背もたれから身を乗り出してこちらを見ていた。
「起きたとき、どうなっても知らないからね」
「大丈夫、大丈夫」
何が大丈夫なのか知らないが、リオンは実にうれしそうに席を立った。
慎重に、クリスを起こさぬようにレネーと席を替わり、再び落ちてきた彼女の頭を嬉々として胸に抱き寄せる。
一度だけ小さく呻いて目を覚ましかけたが、リオンは慌てず、ぼうっとした表情で彼を見つめる彼女に低く囁いた。
「まだ寝てていいですよ。着いたらちゃんと起こしますから」
あきれるくらいの甘い声音だった。今朝も含めて、何度か漏れ聞いた睦言そのものだ。
豹変ぶりにレネーが半ば感心しているうちに、クリスはこくりと小さく頷くと、すぐにまた眠りに落ちてしまった。

妙な関係だ。
口には出さず、レネーは二人を眺めながらそう考えた。

二人が遠からず、関係を結ぶようになるだろうことはわかっていた。妙齢の男女が寝食を共にしていれば、それは至極自然な流れだ。
レネーがいなければ、もっと早くにそうなっていてもおかしくなかっただろう。実際、彼の邪魔が入らなくなったとたんだ。
もっとも、レネーがいなかったら、もっと早い段階で別れていた可能性もある。

一般にいう恋愛感情が、二人の間にあるとは今でも思えない。
レネーには、いまいち理解できなかった。
互いに二十年と十七年、積極的に望んでではないにせよ、純潔を守り続けてきたわけだ。リオンなど、はっきりとあの『峰』の女たちに抱かれることを拒絶していた。
それが、何がどうなって、受け入れるつもりになれるのか。
彼女ならば、彼ならばよいと、思えるようになる理由。
四六時中一緒にいて、情が移ったと言えばその通りだろう。助けたり助けられたりを重ねて、感謝や貸し借りの感覚が形を変えたのだとも考えられる。
だが、きっとそれだけではない。彼にはそんな気がしてならない。
レネーは無性に、それを知りたいと思った。



目を覚ましたクリスが、自分の状況を見て示した反応は、おおむねレネーの予想通りのものであり、特筆するほどのことではない。
到着した先で、三人は宿場町がにぎわっていた理由を知った。

耳にしたのは、カナンの南に位置する国が、西側の小国に侵攻された、というニュースだった。
異常は、カナン市内にのみあったのではない。
整備された通信網の一部が混乱したのだ。最低限とはいえ、周辺にも影響は出た。

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