PiPi's World 投稿小説

デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 110
 112
の最後へ

デッドエンド 112

リオンが退室してから数秒間、ベッドに座ったまま放心していた。
それからふと口を漱ぎたくなって、立ち上がった。少し立ちくらみがした。
洗面所へ向かって歩く。
自分でももどかしいほど、歩みはのろのろとしていた。

だが体に異常はなかった。どこも痛くないし、めまいも去った。普通に歩けるはずだ。
できない理由はわかっている。

夢の中の『私』の感情が、私をさいなんでいた。

あれほど深い…深い、何と言うべきなのだろう。
絶望、が一番近い。
何一つ求めていない。何一つ、必要としていない。
平坦で、安定していて、足りている…死者のように。
それは、体が生から死へ切り替わる瞬間へ、向かうだけの日々だ。

わきあがった憐憫が、夢の『私』にとって初めての、熱を伴う感情だった。
少女の笑みを見て生まれたのは、欲求だ、空虚である自分を、強烈に自覚させる。
居ながらにして隔絶された『私』と、世界との接点。唯一の。

すがりつくしかなかった。
彼女しかいないのは、『私』の方だった。


「クリス?」

いつの間に戻ってきたのか、リオンが私をのぞきこんできた。
やけに驚いた顔をしている。知らぬ間に、夢にとらわれて立ち止まり、涙が顎先からしたたり落ちていた。
彼はなぜとは訊かなかった。
かわりに、どういうつもりか、ふわりと肩を抱かれた。
寝間着の薄地ごしに感じる彼の手は、現実的な質感と熱を帯びていた。何となく、されるまま受け入れてしまう。

夢の『私』の抱える孤独は、私の許容を越えていた。
私が人生の中で感じてきた疎外感など、比較にもならない。現に今まで、ずっと平気で生きていた。
…この絶望のただ中に置かれたら、私はきっと、立って歩くこともできなかっただろう。
育った環境の問題ではない。夢の『私』はそのことにだけ自覚的だった。
もし貧しくなく、保護者に愛され満たされていても、同じだった。生まれながらの体質のように、孤独が『私』を覆っている。

リオンの触れ方はひどく優しかった。
そのせいだろうか。身を預けることに、逆にわずかに羞じらいを覚えた。

正確には、身を預けてはならない、気がした。
警鐘が鳴ったのだ。脳裏で、ごくかすかな。
彼のしぐさに不審な点はない。何かみだらな意図は一切感じられなかったし、そう勘ぐっているつもりもなかった。それはさすがに、自意識過剰というものだ。

私は意識的に、警鐘を無視した。
彼の、他者の手の温かさと優しさを、体が求めていた。渇いた喉が水を求めるように。

リオンの手が、ぽんぽんと背中を叩く。
子供のような扱いに、思わず笑ってしまった。
「え?笑うとこ?」
「いや、違、……っ、」
最後まで言えなかった。
不意に、強烈な吐き気に襲われたのだ。くっと上体を曲げ、リオンの胸に突っ伏す。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す