幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 23
そう思いながら、ドアを開けようとする。
だが、ふと隣の部屋のドアが開け放たれているのを見て手を止める。
(あれ?隣は空いてたのはずなのに…)
不審に思い、隣の部屋を覗くと、寮の管理人のおばさんが掃除をしていた。
「あら、涼子ちゃんお帰りー」
涼子に気付き、管理人が声をかけてくる。
「ただいまー。あの、誰か入ってくるんですか?」
「えぇ、そうなのよ………」
はぁっ……とため息をついて、管理人が愚痴をこぼす。
「今朝、『留学生が来るから、夕方頃までに部屋を1つ用意してください』って、学園長から電話があったのよ」
「留学生?」
「そう……留学生なら事前に連絡があるはずなのに、いきなりだからこっちは大慌てよ」
そういって管理人はまた掃除を再開する。
「今日は朝から、変なことばっかりねぇ………」
掃除の邪魔しちゃ悪いと思い、涼子は自分の部屋に戻る事にした。
「あっ、涼子ちゃん」
部屋に戻ろうとする涼子を管理人が呼び止める。
「何ですか?」
「部屋の表札なんだけど、外国の子だから英語で書いた方がいいかな?」
「うーん……カタカナと英語で、両方書いておいた方がいいかも」
「じゃぁ、英語の綴り教えてくれないかな?」
そして、管理人が留学生の名前を告げる。
管理人が口にした留学生の名は、『アリス・キャロル』といった―――
―――神阿多都女学園・学園長の家―――
「ご要望のもの、全て揃いました」
応接用のソファーで、ケーキと紅茶をご馳走になっていたアリスに、着物を着た初老の女性―――神阿多都女学園の学園長が書類の束を差し出した。
いつも生徒たちを見守っている柔和な瞳が、今は虚ろで、感情が感じられない。
「Thank you. どれどれ……」
アリスは書類を受け取り、ザッと目を通していく。
それは、アリスが学園の初等部に転入する為に必要な書類だった。
「ふむふむ……これで書類は全部揃ったみたいね」
コンビニでの一件の後、アリスはこの学園長の家に来て、不良達に使った術で学園への転入手続きをさせたのであった。
「後は制服と鞄と教科書と……」
学園生活に必要な物のメモを見ながら、アリスは残っていたケーキと紅茶をたいらげた。
そしてそれらの書類を鞄にしまうと、この家から立ち去ることにした。
「じゃ、どうもありがとう。私が家出たら、自由にしていいから」
そう言って、アリスは家から出て行った。
ガラガラガラ……ガチャンッ…
「あらっ?私何してたのかしら?」