たまたま 5
「じゃあ、まずは……」
半端に脱がされたアンリを置いて、俺はベッド、正確にはその横に置かれたボストンバッグに向かった。
バッグのファスナーをあけて、その中身をベッドの上にこぼす。
ローター、バイブ、首輪、鎖、洗濯ばさみ、鈴、ほ乳瓶、ロープ、手錠、カメラ、薬ビン、筆エトセトラエトセトラ……
種々雑多な物品が小さく山を作った。
「ひっ……」
気丈な女優ののどからひきつるような声が漏れた。
「おいおい、まだ始まってもいないぞ?」
嘲るように言いながら、目的のものを幾つか選びながら、再び半裸のアンリの前に立った。
僅かに身を竦ませているが後ろ手を拘束されている状態では逃げも隠れも出来ないだろう。
「まずは質問だ。なあアンリ、何であんな手紙を自作したり、幼稚園児の格好をしていたんだ?」
問うが返答はない。顔を赤くして俯くばかりだ。
「答えないなら、口の自由はいらないな?」
答えがないことを予想していた俺は、手に持つ道具の一つを突きつけた。
それは一見マスクに似ていた。
幅広の布が鼻下から顎まで包めるような形になっており、後頭部に回してしっかり固定できるよう細い布紐が四本、両端からぶら下がっている。
だが最大の問題点はマスクの内側だ。
男根を模したシリコンゴム製の突起が突き出していた。
「さ、口を開けな」
マスクを突きつけると、小刻みに震えながら、嫌々と頭を振った。
「ふん、諦めろ」
問いに答えない以上、彼女の口も立派な調教対象だ。
「ほうら、口を開けな」
マスクの内側の突起を唇にすり付けながら形いいアンナの鼻をつまむ。
二十秒も持たず僅かに空いた隙を見計らって突起をねじ込み、更にマスクで顔の下半分を包む。
吐き出そうとする動きを片手で制しながら、もう片方の手で紐を頭の後ろから口の前まで回して、しっかりと縛る。
「んんっ、んむうっ!」
くぐもった声に笑いながら、さらに道具を取り出した。
その時、後ろから俺の体を3人の女がつかんだ。
俺のクラスメートの稲井よし加、綱田鈴乃、三谷里穂だった。
稲井「右野君、早くアンリさんを自由にしなさい。板木が『右野君が浦浜杏利をペットにしようとしている。』と言ってたから、まさかと思って板木に内緒で公園で見ていたらこんな事をするなんて。」
稲井「板木を注射で眠らせるなんて。早くアンリさんを離しなさい!!」
稲井の迫力に驚いて、俺はアンリから手錠と鎖を外した。
アンリ「あんた、この浦浜杏利に何をするの!もうアタシに近づかないで!」
アンリは怒って、その場から立ち去った。
「稲井、邪魔するなよ。」
稲井は俺にビンタをした後、俺にキスをした。
「右田君、あなたの事が好きなのよ!なんでこんなことをするの!」
俺は急いでその場から立ち去った。
家に帰るとすぐに板木から電話がかかってきた。
「右田君、アタシを注射で眠らせたでしょ。アタシにいたずらにしようどしたでしょ。」
アンリをペットにしようという思いは完全に挫けていた。
だから板木にも素直に謝った。
「警察に行くっていうならそれでもいい。だけど信じてくれ。板木には何にもする気はなかったんだ」
「女としてはちょっと癪ね。自分で眠らせておいて、襲う気はなかったっていわれると……」
苦々しげに零す板木に対して俺はなにも答えられない。
「ま、いいわ。これからは変なことしないで。あと、よしちゃんのことちゃんと考えてあげて」
それだけいうと、板木からの通話は切れた。
よしちゃんーー稲井よし加のことだろう。
あの局面でいきなり告白されてもなぁ……
自室のベッドの上でしばらくいろいろと考えているうちに、一つ妙案が浮かんだ。
俺は携帯を取りだし、何人かの友人たちへ連絡を始めたのだった。