たまたま 2
「これ、あなたが出したんでしょう?」
今にも飛びかかってきそうな勢いで問うてくるアンリだか、そもそも俺は手紙なんか出していない。
そう反論しようとして、思ったよりも近くにある今をときめく女優の美貌を眺める。
19歳にもなりながら、黄色い園児帽に薄ピンクのスモッグ。
傷もシミも見あたらないきれいな生足は、真っ白な三つ折りソックスと、キラキラ光沢を放つキャラクターもののマジックテープ式のスニーカー。
セミロングの髪は赤い玉飾り付きのゴムで二つにくくられている。
肩にはスニーカーと同じと思しきキャラクターが印刷されたポシェットのヒモを斜めがけしており、スモッグの柔らかな生地越しにも柔らかさと大きさを伝える双丘の間を細い肩紐が走り、驚くほどフクヨカな腰のあたりに所在なさげに揺れている。
ゴクリと生唾を飲み込みながら懸命に考える。
たまたま通りかかった公園で、たまたま美人女優が幼稚園児コスしていた場面に遭遇し、たまたま相手は俺のことを手紙の差出人だと誤解している状況……
「手紙の……」
脳みそをフル回転させながらも、俺の口から言葉が紡がれていく。
「手紙の差出人がこの俺だっていう証拠あるのかよ?」
そう、手紙はプリンターで印刷されたと思しき印字だ。手書きならともかく、これでは証明しようがない。
しかし、アンリは真っ赤になりながら反論した。
「30分も前からこのあたり見ていたけど誰も通らないわ。そんなところに来たこと自体、あんたが犯人だってことじゃない!」
なるほど、と思った。確かにこの公園の近辺は細い道しか通じておらず、昼間ならまだしも夜に誰かが通るとは思えない。
それなら、とばかりに俺はスマホを取り出すと一瞬でカメラを起動。
そのまま、今をときめく童顔の美人女優の幼稚園児コスを激写する。
連続して焚かれるフラッシュとシャッター音にアンリの腰はクタクタとくずおれ、地面に尻餅をついていた。
いきなりの撮影にびっくりしたらしく、声も出せないまま、こちらを見つめあげている。
濡れたような潤んだ瞳に劣情をたぎらせながら、心持ち低く抑えた声で彼女を見下ろす。
「さて、浦浜杏利さん。取引です。」
取引、という言葉にアンリはわずかに希望を見いだしたのか瞳に輝きが増す。
それをみながら、ことさら冷酷に告げた。
「正直に答えたら、このスマホのSDカードはあげる」
「なんでもするわよ、それ返してくれるなら。お金? マンション? 車?」
うれしそうに聞いてくる美人女優に望みを伝えてやる。
「おれのペットになれ」
告げられた彼女は一瞬呆けたように口を半開きにし、次の瞬間大音声で拒否した。
「なに言ってるの? この浦浜杏利がなんで名前も知らない男のペットにならなきゃいけないのよ!」
夜気に吸い込まれるかのように澄んだ声が放たれ、
「その手紙狂言だろ?」
その言葉に確かに彼女の体が固まった。
「何言ってるの?狂言じゃないの!」
そう言いながらも彼女は動揺していた。
そして、アンリは急いで帰ろうとした。
「あたし、これからテレビの生放送があるので帰ります。」
「ちょっと待った!」
俺はアンリと、こことは別の公園で2日後の昼間に合うことを、アンリに無理矢理約束させて俺はそこでアンリと別れた。
その2日後に約束した公園は、昼間でもあまり人が来ないところだ。