新学期から学園のシステムを変えたんですよ 1
4月、始業式の日の朝―
僕、平沢凌太は高校2年生の初日に、盛大に寝坊した。
目が覚めたら午前9時半。もう始業式は始まっている。今から急いで着替えて、自転車で猛ダッシュしても着くのは10時前。新しい春の記念すべき初日にこれでは印象が悪すぎる。
だけど、これだけ盛大に寝坊しての遅刻だったら開き直ればいい。仕方ないんだ。そう思いながら制服に着替えて1階のリビングに向かう。
「おはよう…あれ、なんで誰もいないんだ」
仕事がある父さんがいないのはわかる。中学2年と小学6年の妹も新学期で学校に行ったんだろう。母さんがいないのはなぜだ。
「ん」
リビングに一枚の紙切れが置いてあった。何かメモが残されている。
『凌太へ 急で申し訳ないけど、お父さんが重要な仕事を任されたので一緒に海外について行くことになりました。瑛美と心美と力を合わせて3人でお家のこと、頑張ってやっていってね 母より』
「ま、マジかよ!?今朝急にこんなのってアリ!?ってかアイツらも、それ知って普通に学校行けてるのかなぁ…」
衝撃の事実について行けない。なんかもう、今日学校行くのはどうでもよくなってきた。始業式だけだから午前中で終わるだろうしなぁ…
「はぁ…朝飯作ろうかなぁ…っと」
ポケットに入れていたスマホが震えた。見たことのない番号だ。誰だろう。
「もしもし」
「もしもし、平沢くんの携帯で宜しいでしょうか?」
「は、はい」
若い女の人だ。誰かは知らん。
「私、この春からキミのクラスの担任になった深江夕樹です。よろしくね」
「あ、はい」
担任かぁ。聞いたことのない先生だから、他所からやってきた人か、新人の人なんだろう。
「今日は何かあったのかな、体調が悪いとか」
「すいません、盛大に寝坊してしまって。起きたら両親は海外転勤とかって書置きもあって心の整理がつかなくて」
「うん、それは、聞いてます」
「えっ」
どこからのネットワークなのだろう。すでに周知済みとは。
「どうして知ってるんでしょう」
「平沢くんには妹さんが2人いるよね?その妹さんが通う学校から話は聞いてるの」
「そうですか」
「声が聞けて安心したわ。今日のことはいいから、ゆっくり休んでて」
「はい。すいませんでした」
「妹さんと仲良くね。もし何か不安なことがあったら私に相談してね」
「はい。ありがとうございます」
会話を終える。とてもいい先生だなと思った。これからの生活には些か不安もあるが、学校側がわかってくれているなら大きな苦労はしないはずだ。
「ああ、もうこんな時間か…」
朝食というかこの時間になったらもう昼飯だな。妹たちも始業式だけだしもうそろそろ帰ってくる頃だ。
「ただいまー」
「おう、おかえり」
「初日サボりのお兄ぃただいまー」
「一言多いわ瑛美。だいたい先に起きてたら起こしに来てくれよ」
「パパとママの話聞いたらそれどころじゃなくなっちゃった」
やっぱりそうなのか。それなら、仕方ないのかな。
「帰りに優佳里お姉ちゃんに会って、お兄ぃに渡しといてって言われたよ」
「ああ、悪いな」