陣陽学園〜Fight School〜 78
劣等抜け道場の稽古と言えば、アキは古いゲームの主人公を真似たとかで鎖鞭の扱いを学んでいる。
真也は単純にワルっぽくて格好いいからという理由で二連式ソウドオフショットガンを選んだ。
出流も当初は冗談みたいな理由に疑問を覚えてはいた。
しかし二人共それなりの適性があったようで、格闘主体の出流にとっては都合よく不得手な範囲を埋めてくれそうだ。
他の劣等抜け仲間の過半数は元の組へ戻る事を希望しており無理強いは出来ない。
そちらは後々の人脈として活きてくるだろう。
ともあれ今は目の前に居る幕辺弟、気弱な男の娘はボソボソと何と無し喋るだけで済まなそうに唇を動かす。
「初めまして…かな?…僕は幕辺白磁(まくべはくじ)…です…。」
何時も不機嫌そうな小声で話すアキとは違った意味で物静かな性格の様だ。
白磁という名が示す通り色白な男の娘、少々ソバカスの目立つ顔に出流は見覚えがあった。
確か前の抗争で山吹組のゴリ押し気味な白兵戦への突入後、他の十字軍マスケット兵達が浮き足立つ中でも臆す事なく出流の討ち取らんと銃剣突撃して来た所、市花に秒殺されていた少年だ。
八霧流は馬上筒の稽古もあるだけにソバカス顔の理由も解った。
バックファイアの多発する先込銃を扱う者の勲章たる細かい火傷。
仮釈放で利き腕を封印される故に左撃ちの修練か、右頬に比べ左頬のソバカスにはまだ細かい瘡蓋が残っていた。
「君の事…リヒターから…良く聞いてる…。」
出流にそんな知り合いは居ない筈。
国籍不明な鮪漁船ツナ子以外にも山吹組で他国の血が入った面子は居た筈だが、そんなバンパイアハンターみたいな名前に聞き覚えはなかった。
かつて武道一色カチカチ頭だった出流も幾らかの見聞を広めている。
そんな中から正解と思われる内容を脳内検索。
「あ、アキちゃんの洗礼名?」
前にアキから日曜礼拝程度のキリスト教徒も好きな洗礼名を名乗れると聞いた。
「はい…リヒター空波アキと…アルカード扇谷真也には…道場で…お世話になって…ます。」
真也までキリスト教とは出流は驚いた。
それもアルカード、有名な吸血鬼の個人名をアナグラムとして洗礼名に名乗るとは反社会的な性格が伺えた。
ヤンキーな彼だけに礼拝や説法の類が嫌だった故のイタズラか。
反対にアキはゲームか何かの真似事で遊び感覚だったのだろう。
幕辺姉がその辺に気付いたら激怒しそうだ。
白磁の話は小声で聞き取り辛かったがアキも真也も、ああ見えて面倒見はいいらしい。
アキにしろ、真也にしろ、白磁とは接点無さそうな感じなのに知り合うとは・・・
肉体関係・・・でも無さそうだ。
2人とも客と出流以外の男と行為に及ぶ事は無いらしい。
もっとも、出流を男と認識してないようで、もっぱら尻を突く方だが。
そして、白磁の方もその気は薄いようだ。
それに、その身体を見ると格好こそシスターの法衣だったが、アキや真也のような豊胸女体化手術や出流のような投薬女体化のような跡もない。
全く普通の男の身体だ。
もしかしたら、そのショタ巨○ンと言う貴重なカテゴリー故にそのままだったのかもしれない。
「私達の身体は己の欲望の為で無く・・・救済の為に捧げられるべきもの・・・」
白磁の背後に立つシスターが少し頬を染めながら名残惜しそうに言う。
要約すると・・・
デカ○ンにハマって信仰どころでなくアヘるから預かって!
・・・と言う意味だろうか。
幕辺姉弟としては相姦の罪から、一時的に距離を取りたい所だろう。
「八霧、貴様は首を、タテに振る、だけでいい、山吹組とも話は、ついている。」
罪の意識を顕著に見せていた白磁に比べ、壷美の態度は相変わらず。
彼女は一度入れ歯の具合を確かめてから、御大層に芝居がかった口調で説明する。
弟を敵対していた組に預けるという一見して無茶な案、一応はイーブンな内容に整っていた。
山吹組にしてみれば手打ち条件の人質にして新たな戦力。
幕辺姉や十字軍にしてみれば身内の預け先を確保出来る。
「今、我々の中で劣等抜けの機会を、持ち合わせている男手は、コイツだけでな。」
女子は言わずもがな、出流も十字軍男子の事情は薄々知っていた。
彼等は再起の難しい負傷から、劣等科で何かしらの男娼として働いている。