良きオスはシェアするが吉 8
2人の穏やかな表情を見ると、諸々の問題もいずれ解決するんだろうな、と前向きな気持ちになれる気がした。
「ところでさ―」
そんな中、結衣ちゃんが真面目な顔に戻って僕に言う。
「りっくんはさ、どうしてここに来たの?」
「それは私も気になりました。何があって一人旅を」
瀬奈ちゃんも一緒になって聞いてくる。
「さっき、俺、傷心、って言ったの覚えてるかな」
「はい」
「うん」
2人に心配そうな目で見られる。
「簡単に言えば、恋に破れて、職も失った。それだけのことさ」
簡単に、本当のことを述べる。
大したことではない…はずなのだが。
「恋に破れ」
「職を失った…??」
2人は俺の言葉を反芻しながら、キョトンとしている。
「それだけじゃわかんないな。りっくんのこと、私もっと知りたいな」
結衣ちゃんが言う。
「私もです」
瀬奈ちゃんも続いた。
この2人にどこまで理解してもらえるか不安だったが、このまま秘密にするのもよくないだろう。
俺はここ最近起こったことを話すことにした。
職場―つい最近まで勤めていた―に、思いを寄せていた年上の女性がいたこと。
俺はお菓子作りが趣味で職場にもよく持って行って同僚に振舞っていた、と2人に言ってみると
「へぇ、素敵!」
「陸人さんの手作りスイーツ、私も食べてみたいかも…」
結衣ちゃんも瀬奈ちゃんも凄く嬉しいことを言ってくれた。
職場の彼女も、最初はそうだった。
それが数回続いて、距離が縮まったと思っていた。
ある日俺はその彼女に告白した。
「ごめん。ちょっと考えさせて」
俺が想像していた答えではなかった。
それでも、反応は悪くなかったと思った俺は、変わらず彼女に接しようと思っていた。
それなのに―
彼女は露骨に俺を避けるようになった。
理由も聞けず、同僚から「近寄らないで」と言われる始末。
なぜだ。
誰も教えてくれなくて、俺は困惑した。
それから数日、何とかして聞けたことに、俺は愕然とした。
「アイツキモい」
「男の癖にお菓子作りが趣味ってww」
「ちょっと褒めたら本気にしてきやがった、ウケる」
彼女は同僚たちに、俺をそんな風に言っていたのだ。
噂はあっという間に広まり、俺の評判は地に落ちた。
彼女は俺より仕事ができるし、社内の評価も高かった。
「アイツ無謀にも告ったらしいよ」
「身の丈考えろっつの」
俺の居場所はなくなったも同然だった。
―――――
「ちょ、それ酷くない!?りっくん何も悪いことしてないじゃん!そのバカ女がりっくんの心弄んで本気にさせて突き落として、マジで信じらんない!」
結衣ちゃんが憤慨する。
瀬奈ちゃんは無言のまま、何かを必死にこらえているように見えた。
俺が一通り話し終えると、瀬奈ちゃんは優しく俺を包み込むように、抱きしめてくれた。
「陸人さん…辛かったでしょ」