吉原伝説 5
「とって食べようというのではないのですから、そんなに驚かれなくとも」
その言葉とともに香代は立ち上がり、女体を見つめながら惚けたように凍りついたままの安治へとにじり寄り、その前で膝立ちになる。
男の目の前で、女の息遣いにあわせふたつの乳房が揺れる。彼女は両腕で安治の頭を抱え自らの乳房に押し付けた。そんな大胆な行動とは裏腹に、その顔は今にも泣き出しそうに見える。そう、男に慣れた遊女を演じるのも、彼女にとり既に限界となっていた。
その瞬間、体を捩って逃れようとした安治の鼻に、とろけそうに艶かしい香りが飛び込んできた。それは女の、彼女の匂いだった。
「吸って……」香代の消え入りそうな声が安治の耳に届く。抵抗する気持ちは跡形もなく消え失せ、安治は香代の乳首を唇でくわえた。
「ふはっ」香代の口から小さく喘ぎ声が漏れる。同時にぶるっ、と彼女の両肩が震えた。
「香代さん?」「……大丈夫です」「でも」
「気持ちがよかっただけですから。おねがい、続けて……」
迷ったのはほんの一瞬。安治は誘惑に負けたようにもう片方の乳房に勢い良く吸い付いた。二人の息は既に荒い。突然、腰砕けの様相を呈して香代が尻を下ろした。半開きの目、焦点が合わぬままの瞳。濡れて輝く桃色の唇。安治は知らぬ間に自らの唇を重ねていた。