声のお仕事 1
声優―アニメやゲームのキャラクターに声という命を吹き込んだり、洋画の吹き替えを担当したりする人々。
その活動スタイルは最近になって様々な方向に広がりつつある。
「かんぱーい……っつっても、一人のお酒は寂しいな、仕方ないんだけど」
若手女性声優アイドルユニット「El cielo」(エル・シエロ)は結成後初めてのライブイベントを大盛況で終えることができた。
ライブハウス裏の控室でメンバー最年長、唯一成人を迎えた木崎美優は、スタッフが買ってきてくれた缶ビールを独りチビチビ飲みながらライブの成功の余韻に浸っていた。
「お疲れ、リーダー、今日はとっても良かったわよ」
「ありがと、ミクさん。ミクさんも一緒に飲もー」
「もちろんよ、買ってきたの私なのよ?」
「あれっ、マジー?」
美優が一人余韻に浸る部屋にやってきたのはミクさんこと桐生美来。
美優のマネージャーを務める25歳のお姉さん。
「みんなもう帰っちゃったよね」
「他のスタッフが送っていったよ。明日から普通に学校があるから仕方ないね」
El cieloのメンバー、美優以外の3人は現役の高校生、もしくは中学生である。
彼女たちは若くして声優界で活躍するのと同時に、いち学生である。学業と声優としての活動と両立することが理想と所属事務所の社長は日々口にしている。
「麻友は急いで帰っていったけど…」
「大事な試験でも控えてるのかな、そんな時期かぁ」
美優と美来は2人缶ビールをあけ、ライブの余韻に浸っていた。
そのころ―
「麻友ちゃん、今日はお疲れ」
「信二さんこそ、楽しいライブになりました!」
El cieloの現役女子高生メンバー・片瀬麻友は事務所のスタッフ……ではなく、ライブのバックバンドのギタリスト・飯坂信二の運転する車に乗っていた。
「ライブ、初めてで、すごく楽しかったです。お客さんもすごく盛り上がってくれたし…」
「ああ、麻友ちゃんたちEl cieloのみんなが頑張ったからだな」
「ありがとうございます。信二さんたちのおかげで大成功でした」
麻友は美優曰く「とてもまじめな子」
ただし、美優や美来は麻友と信二の関係は全然知らなかったようだ。
「遅くなったけど、メシにしようか」
「はいっ」
信二は内気なタイプで、あえて自分の好みより女性が好みそうな店を選ぶ。
「なんだかセクシーな人がいましたね」
「女の人多かったね」
「リラックスし過ぎてて、下ネタばかり言ってる人いましたよ」
「ごめんね、なんだか思ってた感じと全然違って」
どちらかといえば郊外だった事もあり、店内の女性客もマイルドヤンキーの気質で服装も派手だし多少下品であけっぴろげだった。
もし一人で他のメンバーならナンパしていたかもしれない。
「後の席でちょっと休憩しませんか?」
「ああ、うん」
信ニの車は楽器やメンバーを乗せやすいようにミニバンだった。