弱小事務所の憂鬱!? 1
ザザーン…
海です。海に来ています。
どこまでも青い空と青い海が続いていて素晴らしい眺めです。
「社長さん、海です!」
「こんなところ、生まれて初めて来ましたよ〜」
しかも、若くて可愛い女の子と一緒です。
ええ、確かに幸せかもしれません。
でも、何か違います。ってか明らかになんかおかしいんです。
大手事務所のマネージャーとして十数年。
その間に成果も上げ、こつこつお金も貯め、担当して自分を慕ってくれていた女の子数人とともに独立。
所属の女の子たちもそこそこ仕事をもらえてようやく軌道に乗ってきたところです。
…そんな中で今回、南の島、絶海のビーチにやってきたんです。
目的は『水着グラビア撮影』。
…いや、なんでなんでしょうね。明らかにおかしいですよね?
え?おたくの所属の女の子グラビアアイドルじゃないのかって?
残念ながら、違うんですよ。
ウチ、一応、声優事務所なんですけどね…
どうしてこうなったんでしょうね…
『最近の声優さんは声も見た目も可愛い子が多いよね』
よく言われます。
まあ、確かにそうですね。
実際、今回一緒に連れてる4人もそんな感じです。
そういうこともあって雑誌のグラビア撮影と聞いて引き受けたんですが、その結果がこれですよ。
しかも水着て。
何か騙された感半端ないです。
「社長さーん、一緒に泳ぎましょうよー」
…彼女たちの可愛い笑顔を見たら、それもどうでもよくなるんです、かね…
で、どうしてアイドル宛らのグラビア撮影なのか……彼女達四人ともエロゲ声優です。アニメや映画の吹き替えナレーションよりもエロゲの方が報酬が良いんですよ。一例をあげるならアニメの場合は“話数”単位でギャラが発生しますがエロゲは“セリフの文字数”で報酬が出る。簡単に言えばアニメなら主役なら儲けですが脇役やエキストラなら諸経費で消える事も、だから日数がそれほどかからない上にシナリオルート分岐が当たり前のエロゲをやらざる得ません。
「社長、アニメ声優でやっていける人なんて一握りですよ」
「まあ……同義的にはその」
ただ四人と其々アニメ初主役を勝ちとってます、何れもエロゲ原作で当初はアニメ声優を充てるつもりでしたがエロさが無いと言う監督とシナリオライターのダメ出しにより、急遽アニメ版も主役を務める事になったのです……深夜アニメですからね。
ある程度の人気声優であれば、表…全年齢版と裏のエロゲで名義を使い分けることもありますが、彼女たちの知名度はまだそこまでではありません。
…将来的には考えなければいけない可能性もあるでしょうか。
「みんな若いなぁ…」
僕の隣に一人の女性が座る。
白いパーカーとデニムのショートパンツ姿。
紺野愛美。
我が事務所では最年長(28歳)。
子供向けの人気アニメのヒロインも演じていた実力派で、僕がこの世界で初めて担当した声優でもある。