初体験はお姉ちゃんそして…… 160
「お姉ちゃんこそ、食事中にそういう言葉遣いしちゃいけないんじゃなかった?」
「全く煩いわね。」
「あ、ちょっと言いすぎた?」
「良いわよ。確かフォークを落として『拾わないの!』って私が言ったのがきっかけだったわよね。」
「そうそう。それで僕が『全部教えて』って言ったんだよ。」
「ちょっと焦ったわ。」
「そう?落ち着いてたような気がするけど?」
「あれは『お姉ちゃんらしさ』を見せるためよ。」
「なんだか今日は『お姉ちゃん』って言葉を意識してない?」
「そうかもね。」
お姉ちゃんはふと表情を曇らせた。
「如何したの?」
「何でもないわよ。」
「でも今なんか暗い顔したよ。」
「う……ん…。やっぱりバレちゃったか……。」
「僕には言いづらい?」
「そうじゃないけど……」
「話してくれない?」
「うん…あのね…」
お姉ちゃんはゆっくりと話し始めた。
「アンタと『あれ』をしてから……いつの間にか彼氏を作る気が無くなっちゃったの。」
「それは……僕が居るから?」
「そうじゃなくて…本当はいけないのかも知れないけど……このままだったら誰も傷つけないし……」
「僕は別に……お姉ちゃんの為なら……」
「でも本当の事を言うと別れたくないでしょ?」
「それはそうだけど……」
「ずっとこのままなら……」
「でも……どこまで行ってもお姉ちゃんと僕は血縁があるわけだし……それにお姉ちゃんの意思は如何なの?僕のことは無視していいよ。だってお姉ちゃんが如何したいのかが一番大切だと思うよ。」
そのとき間が悪かったのか良かったのか分からないが、
「オードブルでございます。」
とボーイさんが出てきた。
「アンタが優しいのは分かったけど、せっかくの食事だから食べ終わってからにしましょう。」
「……そう…だね。」
「あ、これ良いわね。正体が『アレ』だとは思えないわ。」
「お姉ちゃん……そういう言い方って……」
「良いじゃない。本当に美味しいんだから。」
「…ねえ……無理してない……?」
「してないわよ。」
「……だったら良いけど……」
「そういう事言うと美味しさや楽しさが半減するわよ。」
「うん……」
お姉ちゃんは笑顔で食事を続けるが、お姉ちゃんは表情を作るのがうまい。さすがは演劇部だが、こういうときに表情を作ってほしくはない。
「うん。美味しかった。」
お姉ちゃんがナイフとフォークを置いたのに合わせて、僕もナイフとフォークを揃えた。もう食べ終わったという合図だ。
「スープでございます。」
「これは……イギリス式?」
「いえ……フランス式ですが……」
「そう。」
お姉ちゃんはボーイさんに聞こえないように
「スプーンの置き方逆じゃないの?」
と僕に囁いた。
「そんな気がする。裏返しだね。」
と僕も答えた。