神装機伝アハトレーダー 31
機体性能は概ね五分五分、スピードとコーンドライブでカターリナ、パワーと作業機転用の武装でG7号の優位。
一対一の白兵戦ならどちらが勝ってもおかしくない流れ。
だった筈。
しかし機体ダメージと精神的な揺らぎの蓄積されたダイダイオ、彼が技量を発揮する余裕は少ない。
そこへ更なる駄目押しが加わる、それは紛れもなく奴だ。
「そのケツ貰ったぁあああ!」
「あひぃい?さっきの変態?」
通信モニターに再び例の黒い『くぱぁ』が大写しになる。
「お…おばあちゃん?」
アインの通信モニターにも映っていたそれは、今はもういない恋人のそれとはかけ離れた代物であった。
家族風呂で、祖母が湯船を跨いだ時にチラリと見えてしまった、それと似ていた。
非童貞だけに発狂こそ回避できても、トラウマな代物であった。
「あ、またカメラずれてた。」
「ぴぎゃあああ?」
「自衛隊…か…?」
グラス弐式がカターリナの背後からしがみつき、お得意の『激しく前後に動く』攻撃。
カターリナの臀部装甲にめり込んだままの杭が押し込まれる。
それよりも、アインは警察や自衛隊に気取られず事を済ませたかったのだが、どうしたものか。
モニター越しに雌ゴリラ…いや日焼けした大柄なWACがアインを睨む。
「こちら陸自人型装甲車試験中隊、中隊長の伊庭3尉だ。」
「ド?ドーモ!アインシュタインです。」
「防衛出動特例二○五号を適用、私の指揮下に入れ。」
「エ?エート?ワタシニホンゴワカリマセン!」
「敵の敵は味方って配慮だ、日本語堪能なガイジン君。」
「どうする…アハト?」
『彼女は3等陸尉(少尉)、あなたより上位者です。』
アハト(のコア)は燐光を放ち、無慈悲な縦社会論を述べる。
所属は違っても階級序列が優先、しかもアインは余所者。
というか地球で異世界の肩書が通用する筈もなく、星見崎姉弟の居候で身元不明外国人以外の何者でもない。
テロリストの一味と見なされなかっただけめっけものである。
「どうする〜?どうせオマエ不法就労だろ〜?」
「う?あ?それはその…?
「面倒見てくれてた人達が路頭に迷うぞ〜?全部オマエのせいで〜?」
「アンタはヤクザかぁあああ?」
二人が話している隙をついたカターリナが、どうにかグラス弐式をふりほどく。
「犬や猿共の戯言は聞き飽きたわ!さらば!」
『逃がすかあ!』
グラス弐式のホイールとG7号のキャタピラが、唸りを上げた。
直線加速だけなら異世界現用機に勝るグラス弐式。
渚機は追撃中で拾ってきたパイルバンカーの杭を片手にカターリナを追い越した。
「低脳雌ゴリラめが!深追いしすぎだ!さっきの礼をさせて貰う!」
カターリナの超合金サーベルがグラス弐式の背面を狙う。
しかしグラスホッパーという機体は旧式故に戦車・装甲車の延長でもあった。
「おいおい?童貞君にアナルセ○クスの責め側は十年早いぜ?」
渚機は急ブレーキと共に戦車なら砲塔に相当する上半身のみを百八十度旋回。
その勢いでカターリナのコックピット付近をブッ叩く。
コックピット前面が歪む程の衝撃にダイダイオがシートで背中を仰け反らせる。
転倒しそうになりながらも、スラスターから青い燐光を噴射し機体制御するダイダイオ、もう必死であった。
「人型の形状に惑わされた!」
ダイダイオはどうにか体勢を立て直し、周囲を警戒。まだいくつかダミーや滞空機雷があるように思えた。
今のダメージでダミーを掻い潜りながら戦える余裕は無くなった、そう判断したダイダイオは移動を開始する。