あの頃に戻って、取り戻せ 19
ウチのリビングに着くと全員揃っていた。出勤前でスーツ姿の父親達、そして主婦2人と藍だ。
何て言おうか迷ったがこの際だ、一気に決める事にした。
誰かが口を開く前に俺は先制攻撃に出る。
藍の両親に向かって
「娘さんを下さい」
交際報告をすっ飛ばして一気に結婚許可を取りに行く。この場の全員に俺の本気度を示す為にもな。
色々問いただしたかったであろう面子も突然の奇襲攻撃を受けて場は沈黙に包まれた。
「本気かい?」
「冗談にみえます?だとしたら心外です」
「……」
「……」
藍の父親と見つめ合う。睨みあっている訳ではないが互いに視線を外さず、その場に張り詰めた空気が漂う。
「……はあ。いずれこの時が来るだろうとは思ってたけど随分早かったなあ」
藍の父親がそう呟いた後に藍に訊ねる
「藍の気持ちは?」
「も、勿論、たっちゃんと結婚するよ!」
「そうか……達弘君」
「はい」
「娘を、藍を泣かさないでくれよ」
「ちょっと?!認める気?!」
「反対する理由は無いし。殆ど既定路線だったろ?それとも反対かい?」
「まあ、多分そうなるかなとは思ってはいたけど、その、あっさり過ぎない?」
「いきなり訳の分からない男を連れて来られるよりマシだよ。それに今後の事もあるしね」
速水夫婦の会話が続く。俺の両親は未だに一言も発しない。
「近々、仕事で此処から暫く離れる事になりそうだからね。時期的に藍の転校なんてあり得ないしちょうどいいさ」
再び視線を俺に向けて藍の父は言う。
「藍は君に任せるけど、流石に学生の間は孫は無しだよ」
「ちょっと貴方」
「学業も疎かにしないでくれよ」
「あのねー」
速水夫婦が揉め始めるが夫は平然と言う。
「止めても無駄だろう。既にコトに及んでいる様だし」
「な、何で分かったの?!」
父親の発言に思わず自爆発言する娘。
「何ですって?!」
「ちょっとアンタ!まだ早いでしょう!」
母親達が騒ぎ出す。が、藍の父は平然と言う。「2人とも雰囲気が変わったからね。特に達弘君は一皮剥けたとでも言うのかな?随分と変わったように思えるよ。この時期でとなればそれくらいしか思いつかなかったね」
この人は鋭い。尤も俺が変わったのは藍との肉体関係よりもあの8年後からのやり直しの影響が殆どだが、流石にそこまでは読めないだろう。
「では今後とも末永くお願い致します」
そう俺の両親に告げるとサッサと仕事へ出かけてしまった。
「本当にあの人は……」
紫乃さんが頭を抱えるが溜息を1つ付いた後に「では、失礼しますね」
と言って自分も帰っていった。
「じゃ、たっちゃん!学校行こ!」
目茶苦茶テンションの高い藍に急かされ、朝食を手早く済ませて俺達は学校へ向かったのだった。
結局うちの親からの反応は聞けずじまいだった。
親父なんて口をあんぐり開けて固まってただけ。母さんは終始ニコニコしてただけ…まあ母さんの場合は中学の頃くらいから「アンタには藍ちゃんがいるじゃない」なんて茶化してくるような人だったし、あの顔は好意的に受け入れてる顔だろう、と判断できた。
高校は家から近くて、歩いて20分くらい。
通学路を藍に腕を絡められながら歩く。柔らかな胸の感触が幸せな気分にさせてくれる。
「おはよー、達弘」
「朝からバカップル全開だな」
「羨ましいわー」
友人男子は顔を見るなりそう言ってくる。