幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 41
そう言うと骨面を頭の上にずらした。意外に整った顔が現れる。
「猿いたら手伝って貰おうと思ってたんだけどー…まぁいっか」
一人?得心すると玄安を見上げる。
「最近新たな茨木軍を名乗ってる集団がいるらしいんだけどなんか知らない?」
「知ってますよ」
答えは寺の正門の方から返ってきた。
「赤千穂殿っ!」
「げっ!赤千穂っ!」
いつの間にかやって来た赤千穂に、さすがの狂骨も驚きの声を上げる。
「お久しぶりです、玄安殿。それに………名前なんでしたっけ?」
「きょ・う・こ・つ。忘れないでよー」
また元のおどけた口調に戻るが、内心冷や汗ものである。
「それで、今日は何? 赤千穂様直々に、俺を成敗しにきたわけ?」
「いいえ、今日はこちらの……」
視線を狼の方に向け―――
「“しっぺい太郎”さんに用がありますの」
何故か名前を強調して言う赤千穂。
「ふーん……“しっぺい太郎”さんにねぇ…」
狂骨も何故か名前を強調して言う。
(……もしかして、俺が偽者ってバレバレ?)
狼は狂骨が現れた事より、段々そっちの方が気になってくる
「それに茨木軍の者とはいえ、いきなり成敗したりはしませんわ」
「んっ? そうなのか?」
今現在、『人間に危害を加えない限り、こちら側も茨木軍の者には手出ししない』というのが火奉の方針である。
中には『考えが甘い』という声もあるが………
「なーるほど。『人間に危害を加えない限り』ね」
「はい」
「じゃ、やっぱり俺成敗されるわけだ」
「えっ?」
今度は赤千穂が困惑の声を上げる。
「ほら、最近ニュースでやってる猟奇殺人。あれの犯人、俺だから」
「………」
その場にいる全員がしばし沈黙する。
「……一応、動機を聞かせてもらえます?」
ゆっくりとした口調で、赤千穂がその沈黙を打ち破る。
「動機か…まぁ簡単に言うと命に価値があるからかな?」
そう言うと赤千穂が珍しくため息をついた。
「薄々は気付いていましたが…」
半分諦めたように呟いた。
「『命は平等、だが死ぬべき命は存在する』、唯一無二の真実だよ」
「…まぁ貴方の事ですから善人に手は出さないでしょうけど…」
赤千穂の言葉にフフンと笑う狂骨。