幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 5
『こんばんは。スポーツ・イレブンの時間がやってまいりました……』
その時、ちょうど深夜のスポーツ番組が始まった頃だった。
『本日は特別ゲストとして、足柄部屋の金太山関においでいただきました』
『ごっつぁんです!』
思わず蛮悟の目が、テレビに釘付けになる。
元々相撲が大好きで、しかも自分が今一番応援している力士が出てきたのだから、当然と言えた。
「おいおい、今日出るなんて聞いてなかったぞ。あやうく見逃すところだったぜ」
そうして身体ごとテレビに向き直り、2本目の缶ビールを開けるのであった……
その時監視カメラには、件の女性用トイレに入っていく、紅夜叉の姿が写っていた。
──雑居ビル・4階女性用トイレ──
一通りトイレの中を見て回ると、紅夜叉は一番奥の個室に入り、戸の鍵をかけた。
今のところ微かな妖気が残っているだけで、近くに妖怪がいる気配はない。
「となると、『おびき寄せ作戦』……やるしかないのか…」
そう言うと、携帯や財布などが入ったウェストポーチを、壁に付いている荷物掛けにぶら下げた。
そして今度は、後腰に差していた二振りの小太刀に手を掛ける。
死んだ父の角を鍛え、作られた『奈落眠剛父御魂(ならくにねむりしごうふのみたま)』───
母の角で作られた『天雅舞柔母御魂(てんがにまいしにゅうぼのみたま)』───
これは、この小太刀を作ってくれた、鍛冶屋のお爺さんが付けた銘である。
しかし、あまりにも長いので普段は『奈落』『天雅』と紅夜叉は呼んでいた。
小太刀も荷物掛けにぶら下げると、しばし洋式の便器を恨めしそうに見ながら、蛮悟の言った作戦を思い出す。
『儂の推測じゃと、犯人は女の用を足しているのを見て興奮する変態じゃ。
だから、紅夜叉がトイレで下着脱いで座ってりゃ、そのうち現れ…』
全部言い終わる前に、蛮悟の顔面に紅夜叉の拳がめり込んだ……
当然、紅夜叉は激しく拒否したが、結局作戦は実行されることに決まってしまった。
シュルシュルシュル……
「まったく…なんでオレがこんなこと……」
ブツブツ言いながら、締めていた白い六尺褌を解いていく。
六尺褌は前袋(ショーツで言えばクロッチの部分)が二重になるので、熱が篭り、蒸れやすくなる。
その為褌を解くと、股間が外気に触れ、スーッとして気持ちが良かった。
「恥ずかしいけど、まぁ……気持ちいいかな…」