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幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜
官能リレー小説 - ファンタジー系

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幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 135

「俺はちょっと買出しに行ってくる。逃げるなんて考えるなよ?」
そう言うと場頭鬼はカズの携帯からコピーしたMSメモリーを紅夜叉に見せてポケットにしまって外出した。
「逃げるにも火奉の動向も奈落眠剛父御魂と天雅舞柔母御魂行方もわからないのに下手に動けるかっての。けど、この部屋は…」
紅夜叉は適当な紐を見つけると襷にして着物の袖を閉めると「よし!」と気合を入れた。
まずは半ばぼろきれと化したタオルを見つけると濡らしてベランダの手すりを拭いて晴天とは言えない昼過ぎの外に布団を干す。
半透明の指定ゴミ袋の中に古新聞を広げてゴミと判断したものを片っ端から入れて満パンになると口を縛ってガムテープで密閉していく。
台所はコンロで鍋に水を張って沸騰させ、蒸気で緩んだ汚れをふき取っていく。
掃除機をかけて埃をあらかた吸い取ると台所掃除で作ったお湯を使って雑巾で部屋中を拭いた。バケツの水は5回以上取り替えたところで数えるのをやめるくらい部屋は汚かった。
洗濯機は大量の洗濯物を詰め込まれて溺れるような音を立てながらもパワフルにまわっている。
大小様々なGのイニシャルを冠する生き物には退場いただきようやく「普通」の部屋になった。
赤井神社で赤千穂に鍛えられた掃除スキルが遺憾なく発揮されたが、それが馬頭鬼相手に発揮されたのかと思うと紅夜叉は落ち込むモノを感じた。
部屋はきれいになっても以前残る「すえた臭い」がそれに追い討ちをかけていた。
「はぁ。何やってるんだ俺?」
一気に全力で掃除した反動からか、紅夜叉は疲れを覚えてちゃぶ台につっぷしながら脱力した。
ずいぶん前からタバコの匂いが漂っては消えている。
そして部屋には無造作に置かれた札束の詰まったボストンバッグ。
持って逃げようと思えば逃げられる。
あからさまに紅夜叉のことを試しているのに本人は腹たった。
中を覗くと百万円の束がミッチリと詰まっておよそ1億円はある。
(160mmX76mmX10mmで約1Kg。重さは10Kg以上あるからそれ以上か?)
「…燃やしてやろうかな」
と、ポツリと洩らすと「ふざけんなテメー!」とドアを壊さん勢いで開いて馬場こと馬頭鬼が帰ってきた。
体中からタバコの匂いがぷんぷんしている。
実際に買い物をしてきたようで手にはインスタント食品とペットボトルドリンクをパンパンに入れたレジ袋を提げていた。
掃除のついでにポットに溜めた沸かしたお湯で食事をする。
サボりにしか使ってないためか冷蔵庫も小さいく野菜とかは買って来ない事に紅夜叉は愚痴った。
「で、この後どうするんだ?」
「頃合を見計らって高飛びするだけだ。海外に行くのもいいな。お前も来るか?」
「(今)パスポート持ってねえよ」
「そんなのこれだけの金があればナンとでもなるさ」
「言った先に伝でもあるのか?」
「ンなもんなくったってこれさえあればな」と言ってボストンバッグをポンポンと叩くと紅夜叉は眉間に皺を寄せて深いため息をついた。
「おっさん。人間ならそれで何とかなるけど妖怪が無届で海外に長期滞在すると目をつけられるぞ。それに職もないならなおさらだ」
紅夜叉はさらに蒼い桜から仕入れた妖が店を持つ苦労と資金について説明した。
「行った先に援助してくれるあてもないで何かしようとしたら外来妖怪として送り返されるか始末されかねないぞ」
そう言うと馬頭鬼は考え込むがしばらくしえ買い物袋からシップ薬を取り出した。
「ちょっとこいつを貼ってくれないか」
そういってシャツを脱いで痣だらけの体を出した。
(駄目だこいつ。現実逃避しやがった)
廃屋レストランで運転手と殴りあったところが紫色になっていた。
湿布を貼ろうとすると紅夜叉はふと思った。
拳のあとというより動物の足跡を連想させる。
偶蹄目。
そう、昔、牛の保定(ほてい・動かないように押さえること)を失敗した牧場のおっさんが後ろ蹴りを食らってできた足跡のようだった。
(それだけあの運転手の手がごつかったってことか?)
紅夜叉は特に気に留めず湿布を貼った。
(しかしどうするか?下手に動けないし、あのカズって奴の動画もなんとかしないといけない。あの手の奴ってヤクザとか絡むのか?…このおっさんのことも含めてあのおっさんに頼むか?)紅夜叉はパンチパーマの白スーツの名詞を思い出した。電話番号と住所は頭の中に入っていた。

一方カズは南区で沈んでいた。
タクシーで意気揚々と『夜烏』に着くとそこは消防車が何台も停車していた。
タクシーの中では(ケイちゃんとユイちゃんのレズプレイ乱入3Pだ!)と興奮していたがその光景に落胆した。

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