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幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜
官能リレー小説 - ファンタジー系

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幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 134

「動いたらこのガキ刺すぞっ!」
「バットでどうやって刺すんだ?」
「うるせぇっ! さっさと武器を捨てろっ!」
「……俺、丸腰の上に素っ裸だぞ」
 混乱している圭吾の口から出るのは、どこか的外れな言葉ばかり。
「うっ、うるせぇっ!うるせうるせうるせうる」
「お前がうるせぇっ!」
 ゴスッ!
「グギャッ!」
 錯乱して喚く圭吾に、紅夜叉が股間に後ろ蹴りを喰らわせる。
(また…かよ…)
 つい先日、コンビニでアリスに股間を蹴られた時の事を思い出し、再び圭吾は口から泡を吹いて倒れるのであった。


──数分後──

「よっこらしょっと」
 馬頭鬼は意識の無い圭吾と運転手を、とりあえず厨房の食材の貯蔵庫の中へと放り込んだ。
 そして倒れている運転手の服をまさぐる。
「おっ、あったあった」
 そう言って運転手の服のポケットから取り出したのは車のキー。
「街出るには、やっぱ車があった方がいいからな。ありがとよ」
 意識の無い2人に二ヤケ顔で礼を言い、貯蔵庫のドアを閉めるのであった。
 
紅夜叉が着物の帯を締めるとボストンバッグにしまってたった服を着た馬頭鬼が戻ってきた。
「よし、出発するか」
「どこに行くんだよ?」
「隠れ家だ」
「なんだ、炬俐のところに帰るのか」
「ば〜か。誰がアイツの所に行くかっての。アイツの知らない住処に行くんだよ」
「そんなのがあるのか?」
「アイツの息のかかった所だけに住んでたら休む暇もないからな」
「つまりサボり部屋か」
「…もう1ラウンド行くか?」
「さあ、さっさと隠れ家に行こうぜ!」
紅夜叉はとっとと助手席に乗り込んでシートベルトを締めた。
車で走ること小一時間。炬俐のホテルとは蒼木ヶ原市を中心に90度の角度に位置する辺鄙な所に到着した。
空き地のような駐車場に馬頭鬼は車を止めると古びたアパートに紅夜叉を案内した。
水抜きの穴あき鉄板でできた赤錆びた階段を上って最上階の二階に着き、蹴れば破れそうな扉の鍵を開けると一階で扉の開く音が聞こえた。
階段をおかしな足音が早足で上がってくる音が聞こえると馬頭鬼が「チッ」と洩らして階段の方に向かった。
「やっぱり馬場さんだ。アンタいったい今までどこ行ってたんだい!?」
ニット帽に鼻眼鏡の小柄な老婆が馬頭鬼にまくし立てた。おかしな足音の正体は杖を突いた足音だった。
「大家さん。すいません。仕事が忙しくて帰れなかったんです」
「家賃も2ヶ月未払いじゃないの。いい加減部屋を明け渡してもらおうかと思ってたところだよ?夜逃げしに帰ってきたのかい?」
「そんなことしませんよ。大家さんの善意で部屋を貸してもらえたんですから。それを踏みじりるようなことはしませんって。今、ちゃんと払いますって。そうそう。急に忙しくなった分臨時収入も入ったんです。滞納分からさ来月分まで払わせてください!」
そういうと場頭鬼はバッグの中に手を突っ込んで指先でお札の枚数を数えると必要枚数の万札を取り出した。
「馬場さん、どうしたんだい?この大金は!まさか言えない様なお金じゃないでしょうね!」
「大丈夫です大家さん。きちんと給料明細に記入される全うなお金ですって」
大家は「本当かい?」と訝しがりながらお札の枚数を数えると紅夜叉と目が合った。
「馬場さん!どうしたんだいその娘は!まさかプチ家出とかの神様になったんじゃないでしょうね!!」
そう叫ぶと杖を振り上げてベシベシと馬頭鬼を叩きだした。
「違います!違いますから大家さん!短期出張の同僚の娘を預かっただけです。数日で帰りますから!」と馬頭鬼は大家の荒ぶる杖から頭を守りながら叫ぶように答えた。
「本当かい?お嬢ちゃん。変なことされたらすぐに助けを呼ぶんだよ」
そういって大家は階段を下りて自分の部屋に戻っていった。
「ふう、ひどい目にあった」とつぶやきながら馬頭鬼は紅夜叉の背を押して部屋に入った。
「馬の舌っていつから2枚に分かれたんだ?」
悪態をつきながら部屋に入るなり紅夜叉は顔をしかめて口をひらけなくなった。
長期間放置された部屋とごみの匂い。常時換気装置が作動しているようだが煮詰めたような悪臭が部屋に立ち込めていた。
その中で一層悪臭を放っていたのが蓋のないゴミ箱の中の黄ばんだティッシュの塊だった。

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