幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 124
それにカズの携帯を奪うかどうかして、仲間に連絡を取れないかと思い、まだしばらく様子を見ることにしていたのだが………
そんな紅夜叉に、カズが携帯のレンズを向ける。
「ほら、笑って笑って」
「笑えるかっ!」
紅夜叉の怒声に少し怯みながらも、カズは色々な角度・距離で紅夜叉を撮影していく。
「ウッ…」
レンズ越しのヌメつく視線に、紅夜叉は思わず身をすくめる。
「ハァハァ……」
カズの荒い鼻息が身体中にかかり、背筋がゾクッとする。
羞恥で顔は赤くなり、胸の鼓動が速くなる。
「炬俐を裏切って、お前これからどうする気なんだ?」
気を紛らわせ鼓動を鎮めようと、ソファーに座った馬頭鬼に質問をしてみる。
「さぁな。軍資金もあることだし、どっか南の島で、面白おかしく暮らすさ」
実に能天気な未来図である。
「で……オレはこの後どうする気だ?」
「大人しく言う事聞いてりゃ、殺したりしないから安心しな」
ブゥーン…ブゥーン……
「ん?」
馬頭鬼と紅夜叉が話していると、軍資金の入ったバッグの中から、何かの振動音が聞こえてきた。
「……フン、炬俐からか」
それは馬頭鬼が服と一緒に押し込んだ携帯電話で、かけてきたのは炬俐であった。
無視しようかと思ったが、ちょっとからかってやるかと思い、馬頭鬼が電話に出る。
「もしもし……」
『馬頭鬼かっ!? 今すぐ俺の部屋から、軍資金と刀持ち出してこい!!!』
「はぁ?」
馬頭鬼は炬俐が部屋の書置きを見て、怒って電話をかけてきたのかと思ったが、そうではなかった。
地下のクルーザーの元へ行った炬俐は、四鬼達の待ち伏せに会い、かなりのダメージを負ってしまった。
本来ならここまで簡単にやられることはないのだが、調子に乗ってアリスと涼子と一晩中交わっていた為、かなりの妖力を消耗していたのだった。
それでも何とか地上に逃げ延び、匿ってもらおうと、森の中を隠れながら、アリスの部屋に向かっているらしかった。
そしてまだ、馬頭鬼が洞窟の中にいると思い込み、電話をかけてきたのだった。
「あ〜…分かりました。すぐ持ってきます」
『頼んだぞっ!』
そう言って電話を切った途端。
「ワハハハハッ!!!」
突然大声で笑い出した馬頭鬼を、紅夜叉とカズがギョッとした顔で見る。
「ハハッ! 炬俐の野郎、隠形鬼にも裏切られてやんのっ!」
腹を抱えて笑い転げる馬頭鬼。
それを見ながら、紅夜叉に一抹の不安がよぎる。
「おい! 炬俐の奴、街中に逃げて暴れたりしてないだろうな」