幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 120
市長の息子であるという立場を使い、中学生でありながら、足立圭吾は炬俐のホテルによく女を抱きに来ていた。
圭吾はその御供に時々カズを連れてきていたのだが、女を抱く時になるとカズを床に正座させ、見せつけるようにして女を抱いていたのである。
馬頭鬼はその様子をモニター越しに見ており、お預けくらっているカズの姿に少し同情していた。
「お、お、お願いです、殺さないでっ!」
「はぁ?」
馬頭鬼にカズを殺す気は無い。
ちょっと脅して、外に放り出すつもりであったのだが………
「やめろ馬頭鬼!」
立ち上がり、馬頭鬼を睨みながら紅夜叉が叫ぶ。
怯えて、涙まで流して震えるカズを見て、馬頭鬼がカズを殺す気だと思ったらしい。
「そいつ殺したら、承知しねぇぞっ!」
「いや、俺は……」
殺す気はないと言おうとして、ふとある事を思いつき、小声でカズに話しかける。
(おい)
(はいっ!)
(いいか、お前はそのまま怯えたふりしてろ)
(へっ?)
(そうすりゃ殺しもしないし、面白いもんが見れるぞ)
(はぁ?)
訳がわからないといった感じのカズをソファーに座らせ、自分もその横に座ってカズの肩に腕を回す。
「おい、早く」
「へっ! そんなにこの人間の命が大事なら、俺の言う事聞いてもらおうか!」
「うっ!」
馬頭鬼の厭らしい視線に気づき、言葉を詰まらせる紅夜叉。
その様子を見て、もう一押しにとカズの肩を掴んで力を入れる。
「ヒッ! 助けてくれぇ!」
「待て分かった! 言う事聞くから止めろっ!」
紅夜叉のその言葉に『よっし!』と、心の中でガッツポーズをとる馬頭鬼であった。
「よーし。じゃ、今からお前はこいつの指示通り動け」
紅夜叉は顔に“?”を浮かべた。てっきりこのまま馬頭鬼がとんでもないことを言ってくると身構えていた。
「で、お前はよ」そういいながら馬頭鬼は掴んでいるカズの肩を強く揺さぶるとカズは「ひぃっ」と息を吸い込んだ。
「あいつに命令して俺を楽しませろ」
「ひ・ひへ?」
カズも意味が分からず声にならない声で問い返す。
「あのガキを使って俺を楽しませろって言ってるんだ。退屈だったらお前の頭を蹄で叩き潰してやるからな」
「ひぃいいい!」
カズは恐怖と緊張で口の中が乾き、うまく声を出せないでいるが、何とか舌に湿り気を取り戻すと叫ぶように言った。
「おい、ガキ!ととととっととこの!…この…こっちの人を楽しませろ!!」
カズの言葉に馬頭鬼と紅夜叉の目が一瞬、点になった。
突っ込みどころがいろいろだった。馬頭鬼を何て呼んでいいのか、よりにもよって『こっちの人』であった。
馬頭鬼はカズの肩を掴んでいた手でペシリとカズの頭をはたいた。
「そうじゃねえだろ?服を脱げとか犬のまねしろとか」