幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 119
「うぉわぁーーーっ!!! 止まれ止まれぇっ!」
競走馬……否、それ以上のスピードで狭い通路を駆けて行く馬頭鬼。
最初は逃れようともがいていた紅夜叉だったが、今は振り落とされないよう、馬頭鬼にしがみ付いている。
(くそっ! このままじゃ皆が……)
隠形鬼の話だと、菊名・太郎・蛮悟の三人は、纏めて倉庫に監禁しているらしい。
幸い皆気絶していた為、隠形鬼達の顔は見ていない。
紅夜叉が大人しくしていれば、炬俐を殺した後、この三人は解放すると隠形鬼は言っていた。
(でも、オレがいなくなったの知ったら………)
だが、ふと別の考えが、紅夜叉の頭に浮かぶ。
(でも、ベッドに書いたこいつのメッセージ見れば、オレが逃げたんじゃなくて、連れ去られたってことが分かるよな。
そうすれば今度は、あの三人に人質の価値が出てくるだろうし……)
そうなれば、三人がすぐ殺される様な事はないだろう。
(そうなると後は、この馬をどうするかだな……)
「おっ、そろそろ出口だ」
「えっ?」
見れば通路の先に、微かな光が見えてきていた。
―――西区の外れの森の中・レストラン廃墟―――
「くそ…あいつらぁ……」
荒れ果てたレストランの中。あちこち殴られ、ボロボロになった少年がソファーに横になり1人呟く。
それはコンビニでアリスに絡み、警察が来る前に一人で逃げ出した少年。
カズこと、金田 一吉(かねだ かずよし)であった―――
あの場は上手く逃げ出したカズではあったが、それを捕まった他の少年達が許すはずがなかった。
市長の弁護士により、足立圭吾より少し遅れて釈放された彼等は、日頃から溜まり場にしていたこの廃レストランにカズを連れ込み、袋叩きにしたのである。
「もう絶交だ……今度会ったら…ぶっ殺す…」
ヨロヨロと立ち上がりながら、店を出ようと入口に歩き出すが……
『よーし、ここでちょっと休憩だ』
他に誰もいないと思っていたのに、厨房だった場所から人の声が聞こえてきた。
慌ててソファーの陰に隠れ、厨房から出てきた声の主を盗み見る。
「………ヒィッ!」
「んっ?」
赤い着物の少女を担いだ、馬頭人身の異形の姿を見たカズは、思わず悲鳴を上げてしまう。
「オワッ!」
カズに気づいた馬頭鬼は、紅夜叉と荷物を近くのソファーに放り投げ、一瞬の内にカズに近付き、胸倉を掴み持ち上げる。
「ハゥッ! アワワワッ………」
「んん? お前、見た顔だな……」
カズの顔に見覚えがあるらしく、ジィーッと顔を見る馬頭鬼。
「………あぁっ、時々市長のドラ息子と一緒に、ホテル来てたガキか」