幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 2
「う〜…誰か知らないけど、すまねぇ…」
「別にお礼なんていいよ。どうせ、これからしばらく眠るんだし」
そうして、トランクを紅夜叉の頭上に掲げ……
「だから、『全部』上げるねっ♪」
……トランクを逆さまにした。
ドサドサドサーーーッ!
「ムギャゥッ!」
トランクの中から、パンやハムに卵、クッキーやキャンディ等が、雪崩のように紅夜叉の上に降り注ぐ。
明らかにトランクの容積以上の食料に埋もれ、紅夜叉は気を失ってしまった。
──約30分後──
「あーっ、食った食ったぁ〜」
自分を生き埋めにしていた食料で腹いっぱいになった紅夜叉は、ゴロンッと草の上に仰向けになった。
気がついた時、すでにアリスはいなくなっていた。
空腹のせいで記憶が曖昧になっており、何故自分が食べ物に埋もれていたのか思い出せない。
だが今は、久しぶりのまともな食事を、素直に喜ぶことにした。
木々で覆われた空を見ながら、紅夜叉は里の仲間達のことを思い浮かべる。
「皆、大丈夫かな…」
小さい頃に両親を亡くした紅夜叉に、里の者たちは優しくしてくれた。
アリスが置いていった食料は、まだ沢山残っている。
その食料の山から、黄金色をした綺麗な飴玉を取り、口に入れる。
一休みしたら、これを持って皆を探しにいこう……そう考えながら紅夜叉は、飴玉を口に入れたまま、深い眠りに落ちていった。
──その頃・樹海の洞窟の1つ──
洞窟の一番奥にある開けた場所を、アリスは『眠り』の場所にすることにした。
天蓋付きのベッドや、テーブル・本棚・クローゼット・ティーセットetc……眠りの為と、目覚めたときの為の物を、トランクの中から次々と出していく。
まるで四次元ポケットのようなトランクである……
「まっ、こんなもんね」
目覚まし用の柱時計を最後に設置すると、洞窟は西洋のお姫様の部屋に様変わりしていた。
「じゃ、後は結界を張るだけね」
結界を張る為の道具を取るため、トランクの中をまさぐる。
だが途中で、「あれっ?」と声を上げて、手を止める。
「おかしいなぁ…『あれ』がなくなってる?」
何処でなくしたのか、少し頭に手を当てて思い出す。
「……あっ、分かったっ! あの時、食べ物と一緒に紛れて、置いてきちゃったんだ」
すぐ取り戻しに行こうと、洞窟の出口に歩き出すが……
「…やっぱ、や〜めたっ」
立ち止まって、クスクスと笑い始めた。
『あれ』には強力な魔力がある……
これから200年の眠りに就き、目覚めたときに『あれ』があの鬼の少女に、どんな運命をもたらしているのか……
「目覚めるのが楽しみ♪」
かなりとんでもないことを考えながらも、アリスの笑顔は無邪気な少女のものだった。
こうしてアリスは永い眠りに就いた──
その後、紅夜叉はさらに三日樹海をさ迷いながら、数人の里の生き残りと再会した。