香港国際学園 75
「じゃあ、八咫烏の血も食ってみるか」
部屋の入り口に、いつのまにか美少年が立っていた。
「なんだテメエ・・・見たことねえヤツだ」
「君が僕を見るのは、これで最後だと思うよ・・・よわっちい昆虫さん」
刹那がその言葉にこめかみを引きつらせると、美少年に凄まじい勢いで飛び掛っていく。
だが・・・
美少年と交差した瞬間、刹那は美少年の後ろへと弾き飛ばされ廊下の壁に激突する。
ドゴンッと鈍い音・・・刹那の勢いが凄まじい分、衝撃も凄まじく壁にヒビが入っていた。
強固な外骨格を持つ刹那でも流石に効いたらしく、ヨロヨロと起き上がる。
「テメエ・・・」
吐き出すように言葉を発するようにして、あたりを見渡すと、そこには誠一、絵里子、奈々子、夜英、晶がいたのだ。
「ぐっ……」
晶を見た瞬間刹那の顔色が変わった。
「……今日は日が悪いようだな」
そう言い残すと窓を突き破り逃げた。
「ちっ…逃げたか」
「大丈夫かい?理人君」
「大丈夫だ、しかしリフレクトかよ・・・」
その視線を瞬く間に刹那を倒した誠二に移す。
「違うよ、別に大した能力使ってないし・・・ウチの家じゃ子供でも出来るよ、立花君」
「君は誰だ?・・・この学校の生徒じゃないみたいだけど」
私服の誠二に理人が問い掛ける。
「鈴木誠一の弟、誠二だよ」
理人はこれには驚く、誠二が同い年ぐらいに見えたのだ。
それだけ堂々とした振る舞いで、兄誠一より年上に見えたからだ。
「裏鈴木じゃな・・・かつての戦闘氏族、物部氏の血を引き、その祖まで辿ると八咫烏に繋がる・・・陰の暗殺者一族」
立花龍翁が呟くように言った。
「今はそっちの方開店休業状態なんだけどなぁ〜・・・僕は愛と平和のために生きる男だから」
人を食ったような誠二の笑顔・・・その笑顔に嫌らしさが無いのは彼が天性の美少年だからであろう。
「八咫烏って美味しいのれすかぁ〜」
「食べ物じゃないよ、ウチの先祖と言われる大国主も、晶の先祖の信太の狐もね」
まったく場の空気と関係無い質問をぶつける晶に夜栄が少し溜息をつきながら答える。
「でも晶、キツネさんと似てないのらぁ〜」
「あのねぇ・・・そう言えば、さっきの虫人間と知り合いなのか?」
夜栄はさっきの刹那の視線が晶を向いてる事に気付いて尋ねた。
「良い人れす〜・・・晶にお菓子くれたり、頭ナデナデしてくれたり、ほっぺプニプニしてくれたりするのれす」
「晶の判断基準はお菓子かい・・・」
そんな2人の会話を他所に、誠二と理人は向き合っていた。
「君は孫悟空だね・・・それに気付かないと、永遠にお釈迦様の掌の上だね・・・」
「どう言う意味だ・・・」
「ん〜・・・意味はそのままかな、たとえ龍の力を手に入れても、君がそれに気付かなければ孫悟空のままだよ・・・」
にこにこしながら言う誠二の言葉、理人は睨み付けるように言葉を返す。
「龍の力を舐めるんじゃない!・・・俺はアイツをこの手で倒す!」
「別に舐めてないよ、事実を言っただけ・・・公元主姫はお釈迦様だから・・・その事に気付いたのは、兄ちゃんと数人だけみたいだけどね」
理人は相変わらず厳しい表情のままだが、誠二は別に気にする様子も無い。
「所で・・・彼女と戦ったらしいけど・・・彼女は怖かった?」
「いや、強かったが、怖くはなかった・・・」
誠二の質問の意味が理解できず、怪訝な表情で聞き返す理人。
「だろうね・・・公元主姫の真の怖さを理解できるレベルに達してないんだ・・・あの怖さを知らなければ本質が見えないよ」
レベルが低いと言われて頭に来る理人だが、それを抑えて必死に理解しようと頭を巡らせる。
「僕もさっき会ったばかりだけど・・・怖くてたまらなかったし、兄ちゃんの言ってることが理解できた・・・君が龍の力を得るのは勝手だけど、分からなければまた負けるよ」