陣陽学園〜Fight School〜 63
そんな中でダミ声が響く。
「最近ヘタレてる山吹組じゃねぇか!白烏のマトにされてるってぇ?」
「気取り屋のハゲが『速さが足りな〜い!』とか捨て台詞残して超逃げてたなぁ?」
真麗愛の胸で見えないが、気配からして大柄な(多分モヒカン)男子二人、金物の匂い…何かしらの武器を携帯しているようだ。
「三編メガネが『らめぇーしゅごぉいー』とかイイ声出してたぜぇ?」
「お相伴あやかりゃ良かったかなぁ?」
若本武留亜と蜂丸市花のコンビか、泣けてくるほど親に忠実だ。
話の流れからして白い烏ではない(多分モヒカン)、つまり倒してしまって良いのだろう?とばかり美智江の動く気配。
出流を胸から解いた真麗愛が甘ったるい声を奏でる。
「今大事な話してるの、邪魔しないでくれるかなぁ?」
金的蹴り、そして血飛沫。
どうと倒れるモヒカン。
真麗愛の手には何時の間にか特殊警棒・・・
杖術もあるソバットだからであろうが、出した所も当てた所も瞬く間と言う熟練ぶりであった。
そして、出流の姿がない。
一瞬見失ったもう1人のモヒカンの脚に物凄い衝撃。
脚を刈られ宙を舞うモヒカンが地面墜落前に見えたのは、屈んだ美少女・・・
出流だった。
美津江から感嘆の口笛。
真麗愛が出流から身を離した瞬間、檻から解き放たれた猛禽の如く飛びだした出流がモヒカン1にスライディング。
股の下を潜り抜ける瞬間に下から金的蹴り。
そして、悶絶したモヒカン1の顔面に真麗愛の特殊警棒が一閃。
感嘆する程見事なコンビネーションだった。
更にそのまま出流はモヒカン2の足元で下段回し蹴りで足払い。
受け身も取れず地面に叩き付けられたモヒカン2に追撃しようと立ち上がった時には、既に美津江が宙を舞っていた。
そのまま足の裏がモヒカン2の腹に降ってくる。
巨体で筋肉質、女と言えど衝突エネルギーは破壊的。
モヒカン2は潰れた蛙のような悲鳴と共に嘔吐物を撒き散らす。
只の踏みつぶし。
プロレス技で言うダブルフットスタンプであるが侮るなかれ。
相撲の始祖とも言われる野見宿禰が当麻蹴速との対戦において、蹴速を殺したとも言われる技なのだ。
やる人がやれば十分な必殺技である。
やられ役としては見事なまでのやられぶりに美津江はため息混じりの苦笑、真麗愛は鼻で笑う。
出流は自分が思った以上に動けた事に驚く。
場慣れしてきたのだろうと思うが過信は禁物。
まだ山吹組で一番弱いと言う事実は彼も心得てる。
それでも美津江と真麗愛の表情を見ている限り、とりあえず認めて貰えたようだ。
そんな誇らしい気分も束の間、巡回の警官と目が会うなり出流は正当防衛の弁明を考えたが、この程度は合法という事を思い出した所で美智江が平手をかざす。
「アタシ達は寧ろ邪魔、行こうかるーくん。」
このテスト都市における公務員は配属の時点で陣陽学園向け『対処能力』の教育を受ける。
そんな具合でモヒカン達の応急処置と並行で救急に連絡していた警官に、真麗愛がにゃんにゃん?な愛嬌を振り撒いてみたが軽くスルー。
懲りずに真麗愛はぷんぷん?がおー!のポーズを取るが、向こうも慣れているのか無視されてしまい、結局出流達に後からついてくる。
そんな道すがら出流は美智江と真麗愛から補足説明を受けた。
法的に容認の喧嘩も街中では一般の方々にご迷惑に違いないという事で、勝敗による評価は低くファイトマネーは全く出ないそうだ。
「え…そんなん出てたの?」
「普通の喧嘩でバイトの時給、合戦(抗争)で日雇いの日当ぐらい、かな?」
美智江の説明する通り、勝敗に関わらず学生プロレス程度のファイトマネーは発生している。
陣陽学園の出資者達は『観客』でもあり、設置カメラの多い学園内なら多少の喧嘩でもファイトマネーの対象となり、合戦ならばそのギャラが高くなるのも当然である。
危険に見合うか微妙な額だが、武術家として売り込む分にはそれなりに旨味のある話だろう。
単にカネが欲しいだけなら身体を売るなり愛人契約でも結ぶなりの話である。
そこへ更に白い烏旅団は街の所々に賭場を開いており、潤沢な資金を運用出来る。
「じゃあ丁度お巡りさんいるし通報…むきゅっ?」
と出流が言い終わる前に、美智江が縞パン越しに睾丸を握り込んで黙らせる。