香港国際学園 195
「……刺す」
まるで言葉そのもので刺し殺しかねないような口調で真澄が言う。そこに重なるように置かれた悠里の湯呑みの音も、そこにいた全員が鋭利な刃物のように感じるものだった。
「そうか……真澄は刺すのか……何時も挿されているのにな……」
「悠里、アンタ真顔でよくそんな事言えるねぇ……だいたいアンタはどうするのさ」
「刺しはしない……武器ぐらい選択させてあげる……それが愛と言うものだろう?」
悠里と真澄のそんな会話に部外者の方が肝を冷やしていた。
「大変だなぁ。」
理人はあまり興味なさげに煎餅をかじる。自分には関係ない事だと主張してるかのようだ。
「理っちゃんだって、美っちゃんと付き合う前はいろんな人と寝たんだろう?いつか刺されるかもよ。」
やなくは意地の悪い笑みを浮かべて理人をつつく。
しかし、
「なわけねぇだろが、俺は美咲以外の女性なんて、抱いたことねぇよ。」
またも、皆の視線が理人に集まる。
「な、なんだよ。変なこと言ったか?」
「え、じゃあ、つい最近まで、理人くん・・・・童貞だったの?」
才英が驚きの目で理人を見た。
「変か?世間一般的にはおかしくないはずだけど・・・・。」
「ここは香港国際学園だよ?ここに来る前だって、戦場にいたんだから、一人や二人・・・・。」
「俺はな、12の頃からよろしくやってる剣護と瞳とは違って、生まれて間もない頃から兵器みたいな扱い方されてきたんだ。人を人として認識するのだって、15になってからだったんだぜ?」
「理人、テメェ、いらんこと言うな。」
今度は剣護と瞳が真っ赤になっていた。
「所で美咲さんと瞳さん……」
「……はい!?」
いきなり悠里に話を振られて面食らう美咲と瞳。
「理人君と剣護君が浮気したら言って……刃物、銃器、必要なら戦闘車両からミサイルまで用意するから……」
何時もの如く無表情である為に、それが本気なのか冗談なのか全く解らない悠里の言葉に、目が点になった美咲と瞳は顔を見合わせ、理人と剣護は椅子からずり落ちる。
「俺は剣護と違って浮気する訳無いし……無実だ!」
「おいっ!……人を犯罪者のように言うなっ!!」
その傍ら、たまたま女生徒から着信のあった才英。逆さ吊りにされて悠理と真澄の尋問を受けているようだが、ほっといて話を進めよう。