陣陽学園〜Fight School〜 19
しかし三船椿とは真逆のテンションで病んだ青髪娘にはそうした理屈は通らず、これから屠殺して肉屋に売りとばされる豚を見下ろす憐れみ目線だった。
「てえか頭一つ違う身長ってこういう事か。」
只でさえ巨漢の犬神鉄斎に頭上でヒラヒラ掌をかざされる出流、折り悪く靴底の抜けてしまったブーツは修繕中、代用として寄越されたローファーだと元の身長160cm弱。
地味にテクニシャンらしい爽やか拳銃使いと中学から付き合ってるという、ギャル娘から厚底サンダルを薦められたが、ビーズやらラメやら少なくとも学校で履く代物ではなかった。
「足の大きさも女の子並だもんな。」
雑賀彦一の言う通り、サイズ24cmで鉄板入り厚底ブーツは在庫切れ、今履いているのは重量こそ同じだがポピュラーな鉛入りローファーだ。
柔軟素材の革靴ベース、鉛袋が上手いこと分散された仕様で歩き易いのは救いか。
最近は鍛練グッズでも幾らか日用を意識して、男女兼用も常識となったが今回ばかりは恨めしかった。
少なくとも前のブーツに蜂丸市花が細工をしたとは疑わない、いくら彼女が変質者でも仲間内の武具に何かすれば後々自分の首を絞める。
有言実行で速やかに手続きして代用品をタダ同然で調達してくれた事に感謝しよう。
しかし問題はよりによってセーラー服に着替えた直後に靴底が抜けて転んだ時だ。
山吹組の男子でも(性的には)マトモそうな部類で目立たなかったヤンキー丸出しの空手少年が『おぅ…大丈夫…か?』と赤くなりながら手を差し伸べる気遣いを見せてくれたのは逆にショックだった。
他所の組で『可愛い』とか指差す奴がいたら指全部ブチ折る、そんな気分だ。
150cm後半の低い背丈の事より、昔から女顔だったのがコンプレックスだったが、まさか本当に女扱いされた事に凹む。
凹む出流にその後、女子として生活させられる出流に人妻的な色気を持つ女子、高輪まどかとギャル系女子の吉良ミシェルが説明役として案内を買って出る。
組に支給されるのはメインとなる教室、ロッカーや風呂がある更衣室、それと仮眠室と言う名のヤリ部屋がある。
因みに支給される部屋は、組の嗜好により改装が非公認ながら許されていたりする。
白蘭組のようなサロンのような部屋構成や、黒獅子組の運動部の部室のような部屋構成に対し、山吹組はヤンキー高校の教室風である。
そのヤンキー達のたまり場のような仮眠室に出流はまどかとミシェルに連れられて入った。
「これで、一通りの説明終わったけど、ここからが本場ね」
ミシェルの瞳が妖しく光るのを見て、出流は嫌な予感がしてくる。
2人のスカートが出流の目の前で落ちる。
現れたのは剥き出しの股間。
ミシェルの淡い恥毛とまどかの剛毛。
そしてワレメを飾るピアスが露になった。
「俺様ちゃん鬼じゃないっしょ?特訓サー!ウチのロッくんも昔は結構早撃ちだったけどぅ〜…。」
ノロケげながら腰をくねらせる吉良ミシェル『可愛いは正義』を体現すべく女子プロレスという戦闘スタイル。
この学園でギャルやるならバットガールズ入れという話を断ってことごとくフルボッコ。
そこへ中学からの彼氏、ロッくんこと射撃家の家系に生まれた島岡六郎が『人に向けるな』というスポーツ射撃の禁を破り、22口径リボルバー片手にリベンジを試みるがやはりフルボッコ。
入学初日からリア充爆発にもめげず犬脱却の為、ボニー&クライドが如く暴れ回っていた所で鉄斎彦一コンビに拾われたという。
ハイテンションでノロケるミシェルに対し、昼下がりどころか昼飯前でも影のある団地妻風女子高生、高輪まどかは多くを語らない。
「るーくん、誰彼構わずセックスする女ってどう思う?」
どこか欲求不満の人妻のような気だるさを含んだ柔らかい口調でまどかは出流に聞く。
今までの出流には信じられない世界・・・
それだけにどう答えていいか分からないが、少年らしい潔癖感故の嫌悪らしきものは表情から少し出ていた。
「そうよね、世間一般からすれば私達は汚らわしい女ですものね」
どことなく楽しそうな柔らかな笑みに、出流は慌ててそうじゃないと言葉を発しようとしたが、まどかが人差し指で出流の唇を押さえて首を横に振る。
「いいのよ、気を使わなくても・・・世間では私達みたいなのを淫売とかヤリマンとかビッチとか言うけど・・・全て事実よ」
「あー、履歴書の趣味の欄にセックスって余裕で書けちゃうぐらい好きだもんね」
まどかとミシェルは笑い合いながらそう言う。
吹っ切れた潔さはむしろ気持ち良いぐらい。
そう思えたり、そんな彼女達が可愛く見えてしまうのは、自分も環境に毒されてきたかと出流も苦笑するしかない。